火ー火ー言わせて水ません。
私は一辛を食べます。
舞台は宮園家の広い庭。青空の中太陽が輝いている。今日は快晴だ。
現在この家には両親と父方の祖父と祖母そしてリーダー聡が住んでいる。
聡には一人四歳上の姉がいるのだが、現在は大学寮に住んでいるためいない。
両親は共働きなので土曜日も出勤。そのため今家には聡と祖父と祖母だけだ。
しかもじいちゃんとばあちゃんは広大な農場で色々作業しているので、
家には宮園とその友人の佐伯と高村のみ、ということになる。
「さ、今日はカレー作るぞ」
「お! 良いねぇ!」
「普通に料理するだけなのに撮影すんのか?」
「思い出として映像に残しておきたいじゃないか」
「ってことはお前らでカレー作るって事か」
「そういうことだ。佐伯、美味いカレー作ろうな」
「まかしとけって! いやぁワクワクすんなこういうの!」
「よーし、じゃあ早速取りかかろうか」
このとき佐伯には気づかれないように宮園と高村は不気味に微笑みあった。
実は前日の夜のこと。
宮園と高村は電話である企画を話していた。
「佐伯に悪戯してやろうと考えてるんだよ」
「どんなんだ?」
「すごい激辛カレーを作って、佐伯が辛さで悶えているところを
庭のホースで水をぶっかけるって感じかな」
「あいつだけ激辛にしようや」
「佐伯と二人で作るつもりだからなぁ」
「お前だけでカレー作ると言ったら間違いなく怪しまれるからな」
「そうなんだよ。そこなんだ」
「まぁいいか。ってことは食うときは外なのか」
「その通り。庭のホースとかバケツの水でぶっかけてやろう」
「うまくいくかね」
「何、大丈夫さ」
時間を現在に戻す。
キッチンに宮園と佐伯が立っている。
佐伯の視線はあるものに注がれていた。大量の赤唐辛子だ。
「これはもしや……」
「そう、カレーといっても激辛カレーを作る」
「俺な、実は辛いの苦手なんだよ」
「お、これまた意外だな」
「親父の食ってた辛いカレー食って悶えまくってそれ以来辛いカレーが食えないんだよ」
「じゃあこれで克服するんだ」
「おっしゃあ! テンションが激辛に勝つ!」
「その意気だ! それじゃレッツクッキング!」
料理開始。まずはニンジンやら野菜を切り刻んでいく。
「企画は何か考えてんの?」
「一応ね」
「今度はどんなんやるんだ?」
「台車で駄目だったから、今度は自転車であの池を飛び越えたいな」
「本気かよ」
佐伯がふと唐辛子の山の方に目をやり呟くように言う。
「これすっげぇ量だな」
「そうだろう、間違いなく激辛になるだろうだろうな。これだけ入れれば」
「親父の食ってたカレーより辛くなりそう」
「じゃあこれ食えれば親父を超えられるじゃないか。良かったな」
「俺ココ●チの普通ですら少しキツイってのに……」
「そうなの? そういや大分前一番辛い奴食ったな」
「マジかよ、どうだった?」
「口への刺激は大丈夫だったんだが、いやぁその後の大をしたときね。
ケツへの刺激も半端じゃなくてさ」
「ってことはこれも……」
「まぁ相当来るだろうな」
「……」
「ったくこれからカレー食うってのに」
ここで料理中無言だった高村の口が開く。やや呆れ気味だ。
さぁいよいよ後は煮込むだけ。
「おっしゃ、もうちょっと!」
「大分とろけてきたな」
「良いねぇ、早く食いたいな」
「そうだな、親父を超えるんだもんな」
「でもその後のケツがな……」
特にアクシデントもなくカレーは完成。舞台はキッチンから裏庭へと移る。
白い円卓を囲って座る3人。
三人の前にはあの激辛カレーが置かれている。
宮園の口が開いた。
「さぁ待ちに待った激辛カレー。早速食べていこうじゃないか」
「おしゃ!」
「おう」
「よーし、それじゃ。頂きまーす!」
「頂きまーす!」
「頂きまーす」
三人が同時にカレーを口の中へ運ぶ。
二秒くらいして佐伯が悶絶とした表情へ変貌し絶叫する。
「ぬああああああああああああああ」
凄まじい雄叫び。凄まじい表情。まるでホラー映画のようだ。
「お前よくすまし顔で食えるな……」
高村も苦悶に満ちた表情で宮園に言う。
宮園は全く表情を変えず、平常の顔で食べ続ける。
「ハッハッハ、こりゃあちょっと辛すぎたかな」
余裕のある感じがまた凄いところ。
こいつの舌はどうなっているのか。
「お前は舌もバカなんだな」
舌が辛さで犯される中、高村の毒舌が炸裂する。
数分くらい経った。相も変わらず宮園は普通に食べている。
もう少しで完食しそうだ。一方の佐伯と高村はまだ半分も食べ切れていない。
「おいおい、まだ半分も行ってないじゃないか。これはしばらく時間がかかるかな」
「うおおおおおお!!!!! 俺は負けねぇ!」
「良いぞ、その意気だ! さぁ高村もファイト!」
「ぐお……」
「ふ~、ごちそうさまでした」
さらに数分が経ち、宮園は早くも完食。その表情には余裕が見える。
勝者のような笑みを浮かべながら、二人が苦悶する様子を眺める。
高村は後三口ぐらいの所まで来た。
佐伯はまだまだ残っている。やはり彼には厳しいようだ。
「ちくしょう、俺は負ける訳にはいかねぇんだっ……!!!」
「バトル漫画みたいなセリフだな、カレー食ってるだけなのに」
そして数分経過。ここで高村がついに完食。
「人生初だ、こんなもん食ったの」
「良いモンだろう、こういう激辛も」
「いや、もう二度と食べたくないな」
「ハッハッハ」
佐伯も後少しという所だ。宮園は高村とアイコンタクトする。
佐伯は全くそれに気づく気配がない。そしていよいよ佐伯が完食した。
「よっしゃあああああ!!!!! 俺の勝ちじゃああああああ!!!!」
「おめでとう! よく水も飲まずに食べることが出来たな!」
「やった、俺は乗り越える事が出来た!」
「よし、じゃあたっぷり水飲ませてやるからな」
「よろしく頼むぜ……」
テーブルに伏せる佐伯。ぐったりしている。
その間に庭のホースを持ってくる高村。
宮園もこっそり用意していたバケツをもってくる。
「持ってきたぞ。さぁたっぷりと飲め!」
佐伯が宮園の方へ振り向いた瞬間、宮園が佐伯にバケツの水をぶっかける。
ビックリして飛び上がると、今度は高村からホースで水をかけられる。
パニックになっているのか逃げようとせず手で防ごうとする佐伯。
「ちょ、やめろ! やめてくれ!」
やめる気配が全くない高村。側で宮園が笑っている。
「ちくしょ~このやろ!」
高村に突進する佐伯。高村は放水で応戦するも、
佐伯はそれを突っ切って高村の所へ着き、ホースを掴んで高村の方へと向けた。
「うお、お前!」
「このやろくらえ!!」
ホースのつかみ合いになっている様子を見てさらに笑う宮園。
「笑ってるお前もだぞこの野郎!」
佐伯はホースを宮園の方に向けた。高村はやけになったのか宮園を押さえつけようと突撃し始める。まさかの二対一になった宮園は逃げ回る。
「高村貴様!」
「やかましい日頃の恨みだ」
結局宮園は捕まり容赦ない放水を顔面から食らうことに。
「おい! この大事な顔に何と言うことを貴様ら!」
「うるせぇ! お前にもたっぷりとくれてやらぁ!」
「そうだ。お前も飲んどけ」
「ぐわあああああああああ」
あれから時間が経ち、かつての惨劇の場所は綺麗に片づけられ、
宮園と佐伯がパンツ一丁で同じくパンツ一丁の高村の持つカメラの前に立つ。
「何だよお前らグルだったのか!」
「前日に電話で話しておいたんだ。まぁ結局お前は佐伯についたけどな」
「もういっそみんな濡れちまえって思ったんだよ」
「カメラは大丈夫だったみたいだね」
「そうだな、よく頑張ったよそのカメラも。んじゃもうここらで終わりにして、銭湯にでも行こう」
「良いねぇ!」
「よし、じゃあ良いぞ切って」
撮影後の宮園と高村。
「さっき良いだけ水浴びたじゃんか」
「良いじゃないか、疲れと共に洗い流そう」
「まぁたまには良いか」
「そんなことより、次の便は覚悟しておくんだぞ」
「あれマジできついんか? 俺そういうの未経験なんだよ」
「半端じゃないぞ。口は耐えられるが尻は無理だった」
「口から火吹いた後はケツから火吹くってのかよ」
もちろんしばらくした後三人はトイレで地獄を見るのでした。
祖父と祖母は農作業で全く気づかず。