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八二天下  作者: グリーンわさび
第一期
2/12

飛び込んで池!

いらっしゃいませ。

ここはこれといって特に言うこともないただの町。

人通りも少ないし、車もそんなに走らないし、観光名所というのも無い。

道の駅ぐらいはあったか。

まぁ、山に囲まれて自然は豊富という点は長所かもしれないが、

そんなことはこの町に限ったことではない。

この町のほとんどの人たちは「特に何もないねぇ」と言う。そんな町だ。

しかし、そんな町に馬鹿馬鹿しくて下らなくてどうしようもないバカなことをするという

連中が現れた。そのバカどものリーダーは自分たちをこう名付けた。


八二天下と……!





「どう、高村? 映ってる?」

「あぁ映ってるよ」

「オッケー、んじゃはじめっか」




「どうもー。八二天下でーす。

記念すべき第一回なんで、自己紹介していきまーす。

リーダーをやってまーす、宮園聡でーす。

そして隣のこの小さい奴が」

「佐伯薫でーす」

「そして俺たちを映してるでけぇ奴が」

「高村好也でーす」




「まぁ俺たちは何かと。簡潔に言うならば、バカです」


佐伯と高村が笑う。


「普遍的で退屈な日常を壊すため、

バカなことばっかりやって楽しもう、という集団です。

どうぞ宜しくお願い致しますね」

「宜しくどうぞー!」




「さて、ここは俺んちの畑なんだけど」

「ここで何すんの?」

「そう急ぐでない佐伯。とりあえず、あれを見てみろ」


宮園が指をさす。

その方向へ体を向ける佐伯と、カメラを向ける高村。

宮園がさした方向には小さい池があった。


「あれはね、農業用のため池なんだよ」

「へぇ~、そういやお前の家ってでっかい畑持ってるよな」

「そうそう。じいちゃんとばあちゃんが畑やってるんでさ。

何と、肥だめまであるんだ」

「マジか! すごいなぁ」

「近くまで行ったけどくっさいのなんの。いやぁすごいわ」

「だろうなぁ」


宮園と佐伯が企画そっちのけで盛り上がる中、高村が一声入れる。


「んで、記念すべき一回目はあの池を使って何すんだ?」


「そうだった。まぁ記念すべき一回目だから、シンプルな物でいこうと

考えたわけさ」


池でシンプルなバカなこと。佐伯の表情が少し変わる。

何をやるかは見当がついたが、とりあえず宮園に聞いてみる。


「その企画とは?」


真顔で淡々と、宮園は言った。


「あの池に飛び込む」




大笑いする宮園と佐伯。一人あきれた表情をする高村。

あまりにも無意味。飛び込んでびしょ濡れになるだけである。

記念すべき第一回だからか、お二人のテンションはかなりの高さである。

笑いながら佐伯が宮園に問う。


「飛び込んで終わり?」

「あぁ」

「バカだなぁ、ずぶ濡れになって終わりだもんな」


再び笑う佐伯。

今度は高村が宮園に問う。


「俺も飛び込むのか?」

「当たり前だろ」

「カメラはどうすんだよ」

「一人ずつ飛び込むから俺たちで撮るよ、安心なさい」

「あぁ、三人同時じゃないのか」


「で、誰が最初に飛び込むの?」


佐伯が口を開いた。すかさず宮園が答える。


「ここはリーダーの俺だろう。

さっきからウズウズしてるんだよ体が、

もう飛び込んでくるぞ俺」


「まぁまぁそんなに急がずに。321の合図で飛び込もうぜ。

何てったって、お前の飛び込みが開始宣言みたいなもんだからな」

「よし、それで行こう!」


佐伯の提案を受け入れた宮園は、

早速服を脱ぎ、パンツ一丁になって池の前に立つ。

先ほどよりもテンションが上がってきた宮園は叫ぶ。


「よっしゃー! 行くぞお前らー!」

「何でそんなテンションになれんだか」


笑いながら高村が突っ込む。

佐伯も叫び返す。彼もまたテンションがどんどん上昇している。


「おーし! んじゃ合図入れるぞー!」

「来いやー!」


「3!」


「2!」


「1!」


「八二天下スタートだああああああ!!!!!!」


という叫びと共に池へダイブする宮園。

ドボーンという大きな音と一緒に勢いよく水柱が立つ。

一気に笑い出す二人。

佐伯に至っては拍手をしている。

宮園は池に浮かびながら力強くガッツポーズをした。




「いやぁ、記念すべき一回目だからか、

すごいテンション上がるわ」

「よっしゃ! じゃあ次俺飛び込んで来るぞ!」

「よーし飛び込め飛び込め!」


テンションが上がる宮園と佐伯を見つめる高村。

その視線には若干冷ややかなものを感じる。

そして、俺も飛び込むのか……という不安な表情も含まれていた。




パンツ一丁になって池の前に立つ佐伯。

その後ろには宮園が立っている。


「俺が合図してやるから、それで飛び込め」

「オッケーまかしとけ!」

「んじゃ行くぞ!」

「来い!」


「3」


「2」


「1」


の時にいきなり宮園が佐伯の背中を押した。

予期せぬ事態に佐伯は混乱……になる間もなく池に落下する。

宮園ほどではないが水柱が立つ。

水面から顔を出した瞬間佐伯は宮園に言う。


「何しやがんだこのー!!」


爆笑する宮園。それに釣られて爆笑する佐伯。

二人の笑い声が響き渡る。

高村の持つカメラにはパンツ一丁の二人の男が

ひたすら爆笑しているという

何とも珍妙な光景が映っている。




「さて、残りはお前だな。カメラは佐伯が持つから。よし、一緒に飛び込もうや」

「まぁ俺だけ飛び込まないってのもあれだし」

「そうだろう、よしじゃあ行くぞ! 佐伯、カメラよろしくな」

「オッケー!」


高村もパンツ一丁になり、宮園と二人で池の前に立つ。


「おし、321で行くからな」

「ホントかよ、さっきみたいのにならねぇだろうな」

「ならないならない。安心せい」


「3」


「2」


で宮園は高村を池に落とす。

と同時に高村の上へ飛び込む宮園。

再び爆笑する佐伯。


「てめー!」


高村が宮園に叫ぶ。


「ハッハッハ、さっきは1で落としたからな。今度は2だろ?」


「このクソ野郎!」


「ッハッハッハ……」


今度は三人のパンツ一丁の男どもが爆笑している。

近くに人がいれば間違いなく変人と思われるだろう。



その後、パンツ一丁でびしょびしょになった宮園と佐伯が話す。

三人ともテンションは普通に戻っているようだ。


「さて、池に飛び込むだけという何ともばからしい企画だったけど、

なんだかんだ言ってテンション上がったな」

「こんなんで俺たち爆笑してるんだからなぁ……」

「ホントだよな。なんだかこれからどんどん精神年齢が低くなっていく気がするわ」

「池に飛び込むので爆笑してるんだから、この先どうなるんだかな」

「まぁこれは序の口だよ。これをスタートに色々やっていこうと思う」

「これ池に飛び込むだけだもんな」

「そう。まだまだやれる事はいっぱいあるさ」

「楽しみってのもあるけど、不安もあるな……」

「んじゃ、そんな訳でここらで撮影終わりにするか。良いよ、切って」


こうして第一回目の彼らの企画が終了した。

撮影終了後、高村と宮園やりとり。


「お前らテンション上がりすぎだろ」

「またぁ、お前も笑ってたじゃないか。どうだ、楽しいだろう」

「楽しいには楽しいけどよ……」

「ん?」

「お前が上に飛び込んできたとき結構痛かった」

「ははは、そりゃ悪かったな」

「っていうかクオリティ低くねぇか?」


むちゃくちゃ腹が痛い。

正露丸飲みました。

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