そんなある日
初めて投稿したのでお手柔らかにお願いします
からん
とある喫茶店のドアベルが軽い音をたてる。
「いらっしゃいませ」
中年で人の良さそうな、マスターらしき人物が微笑みながら出迎えてくれた。
今は黄昏時。
落ち着いた色合いをベースとしてある、人気のない店内には、全てを包み込むような温かい色をした夕日が差し込んでいる。
「どうぞ」
そういって差し出された一杯の水。
夕焼け色に染まったそれは、なんだか、他のどんなものよりも最高のもののように感じる。まるで汚い、汚い、汚れたこの世界からも自分からも、自分を助け出してくれる、大切な命綱―――そう、芥川竜之介の作品である『蜘蛛の糸』のそれと同じような―――
柄にもなく、感傷的な気持ちになってしまったと、自嘲ぎみに歪んだ笑みをうかべる。
まぁ、こんな日もありかなと思いつつ、出されたただの水を一気にあおった。
それからコーヒーを一杯だけオーダーし、オーナーに感謝の気持ちも込めて、代金より多少多くお金をカウンターに置いて、そのままその場を後にした。
金でいくら表せるかはわからないのだが、それでも、ないよりはましかと思った。
「ありがとうございました」
――こんな日もありだろう――
そう思って歩きだした道はすでに日が暮れた後で、空も道も暗闇一色に染まっており、その中で"あぁ、自分の色だ"と安堵する己がほんの少しだけ怖くなった。
END