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プロローグ

時代:長い長い悠久の時

場所:リフガイア




彼女は眺めていた。


生まれ。

成長し。

子を成し育て。

老い。

そして朽ちゆく。


そんな無数の営みを眺めていた。


いや、正確には。

ただ眺めることしか出来なかった。




その身は既に個ではなく、全。


その意識もまた、個ではなく、全。


確固としたモノはなく、ただ漠然とした存在。


いつからだろうか、いつからこんなことを続けているのだろうか。


始まりの記憶は既に掠れ、終わりはいつ来るかすらわからない。




ただ、ひとつだけ。


ひとつだけ、その漠然とした意識の中に芯としてあるもの。




助けたかった…、助けたかったのだ。


上手くいかなかった、良かれと思い、精一杯やったけれど…。


結局は、助けられなかった。

もっと、もっと、苦しめることになってしまった…。




誰を、どのように助けられなかったのか。


その過程も、対象も。

強く抱いていたはずの大切な、とてもとても大切な思いすらも。


最早、漠然としたその意識の中では。


起きたら消えてしまった夢の記憶のように。


ぼんやりとしか残っていない。




ただあるのは後悔と懺悔。




ごめんなさい。


ごめんなさいごめんなさい。


ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……




誰に謝らなければならないのかすら覚えていないのに。


謝る相手には決して届かないというのに。


ただ、謝り続けることしか出来ない。


だからずっと謝り続ける。


ごめんなさい、と。




どのくらい、こうしているのか。


区切りも抑揚もない、まるで一筋の光も射さない漆黒の闇の中にいるように。


次第に侵食され、少しずつ拡散してゆき。


だが、還ることも叶わず。狂うことも叶わず。


ましてや死という概念すらない今の身の上では。


ただ引き伸ばされ、次第に薄くなってゆく感覚があるだけで。




決して消えることは叶わないのだろう。




次第に悠久と錯覚していった長い長い時の中で。


絶望したところで、何も変わりはしない。


何も出来やしない。


そう、何ひとつ出来やしないのだ。




ならば、もう。


何も眺めないでいよう。何も思わないでいよう。


何も…何も…。


今の自分に瞼があるのかわからないけれど。


今の自分に心があるのかわからないけれど。




目を閉ざそう。思いも捨てよう。


もう何も……望まない…………










だがその直前。


全てを捨て去るその前に。


ようやく見つけた。ようやく見つけたひとつ光。




姿は思い出せない。


気持ちも思い出せない。


だけれど…。


眺めれば眺めるほど。


薄くなった自分に、じんわりと広がってゆく温かい、とても温かい何か。




懐かしい…。


愛おしい…。


共に在りたい…。


気付いて欲しい…。


お願い…。お願い、気付いて…。




だが、それは叶わない。


今の自分は、誰にも認識出来る対象ではないのだから…。




でも、諦められない。


諦めたくない。




寒いよ…。


寂しいよ…。


辛いよ…。


苦しいよ…。


誰か、助けてよ…。


もう…、ひとりは…嫌だよ…。


…なんで、なんで…。わたしだけがこんな思いをしなければならないの?




光を見てしまった。

見つけてしまったからこそ、再び生まれた負の感情…。


自分を守るために、そうしなければとても耐えられなかった。

遥か遠い日に捨て去ったはずの、ひととしての………




何か、何かないだろうか。


何でも、構わない。


自分が認識してもらえないのならば、何かサインのような、そんなものだけでも。


せめて送れないだろうか。


何でもいいのだ、例えそれが喜びをもたらすものでなくても…最早、何でもいい…。




そう思い、探った。


必死に、手ですらなくなった、手だったと思う部分の意識を必死に動かし、探った。




…ある。ひとつだけ…。


たったひとつだけ方法がある…。


漆黒の宝珠。これが、あった。




…だけどこれは、きっと忌むべきものだ。


事実、たった今まで、自分が意識するまでその宝珠の存在自体消えていたのだから…。






でも…。


…もう、耐えられない。





そう吐露し、彼女は漆黒の宝珠をその身の内に取り込んでしまった。






誰が、彼女を責められただろう。


誰が、彼女を断罪出来ただろう。


たったひとり、その身を望まず捧げることになってしまった彼女を。


悠久のような時の中で、ひとり孤独に打ちひしがれる彼女を、一体誰が。




…そんなことは、誰にも出来やしないのだ。








ただ、ひとつだけ言えることがあるとすれば…。






再び、世界に無数の悲劇が撒き散らされる。

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