追放
「このパーティーから出て行って」
冒険から帰り、いつもの宿屋に戻って来たタイミングで放たれたその言葉を俺は理解することができなかった。
「・・・どういうことだ?」
「聞こえなかったの、あんたはもう必要ないって言ってんの」
状況が呑み込めない。Bランクになり、冒険者の最高峰であるAランクまであと一歩であるこのタイミングでリーダーを追放するというのか。
「なっ、俺はこのパーティーのリーダーだぞ。リーダーを追放なんて聞いたことがない!」
「そうかい?パーティーの成長に必要なら、リーダーでも切り捨てるべきだとあたいは思うけどねえ」
話に割り込んできたのは、戦士であり副リーダーであるベルシャ。
最初に追放を主張し始めた魔法使いであるフレイに加え戦士であるベルシャ、5人中2人から要らないと思われているのか。
そう思った瞬間、全身に燃え上がるな血が流れ込んできた。思わず目の前にある机に拳を叩きつけようとするも、ぐっとこらえ話を続ける。
「・・・理由を教えろ」
「言わないと分からないわけ?」
呆れたといわんばかりに肩をすぼめるフレイに代わり、ベルシャが口を開く。
「1月前に受けたクエストも、先週受けたクエストも、そして今日受けたクエストも全て失敗だ。それどころか、今日のクエストでロイは重傷を負った。このままじゃ、いずれ死人が出ちまう」
「・・・その責任ってことか」
今回含め度重なるクエストの失敗、その責任を俺1人に負わせようって魂胆かよ。だいたい、俺の指示は完璧だった。
それをお前らが、指示通りこなせないのが悪い。失敗の責任と言うなら、俺じゃなくお前らが取るべきだろうが。
「他の奴も同意見か?」
そう言い放ち、フレイとベルシャ以外のパーティーメンバーを見渡す。俺をリーダーに魔法使いのフレイ、戦士のベルシャ、剣士のレイン、アサシン兼索敵の無令、支援術士であるロイ。この6人がこのパーティーのメンバーであり、数々の死線を潜り抜けてきた仲間だ。 だから、今回のことはフレイとベルシャが勝手に言ってるだけで、他のやつらは反対するはず。
しかしそんな思いとは裏腹に、他のメンバーから発せられた言葉も追放を示唆するものだった。
「わたしも賛成」
「僕もレナードさんには出て行ってもらった方が良いと思います」
無令とロイも賛同の意思を見せる。
・・・そうかよ。仲間だと思ってたのは俺だけってことか。苦楽をともにしてきたといえど、せいぜい3年かそこらだ。そんな短期間で、心が通じ合う仲間になんてなれるはずがなかった。
だが、幼馴染のレインは違う。同じ村からこの町に一緒に出てきて、2人きりのパーティー時代から今まで一緒にやってきた。そうだ、またレインと一緒にやり直そう。時間は掛かるが今度こそAランクに・・・
しかし、レナードの期待はまたしても裏切られることになる。
「う、うちも一回外の世界をみてきた方が良いと思うな」
気まずそうに小さく呟くその声はしかし、レナードの耳にくっきりと響いた。
「は?」
思わずそう口走る。生まれた時から今までずっと一緒に育ってきたレインが今、出ていけと、そう言ったのか?
今まで仲間どころか、家族とまで思っていた人間に裏切られた。その事実が、どこか浮世離れしていた追放を真実としてレナードに受け入れさせた。
改めて周りを見渡してみると、かつてレナードをリーダーと慕っていた目はどこにもなかった。あるのは、侮蔑と憐みの入り混じったまるで弱者を見るような目だけだ。
・・・なんでそんな目を向けられなきゃならない。そもそも、本来ならその目をしているのは俺の方だろ。俺の命令に応えられないお前らが全部悪ぃんだから。
だいたい、Bランクまでこれたのは誰のお陰だ?全部俺のお陰だろうが!メンバーを集め、最適な位置に割り振り、指示を出す。お前らがこれまでクエストをクリアできていたのも、ランクを昇給できたのも全部俺のお陰だ。
その俺を本気で追い出すのか、こいつらは。
絶望、そして怒りに打ち震えているレナードを見て、フレイが勝ち誇ったような表情で高らかに煽る。
「わかった?あんたみたいなのはもういらないの。さっさと出ていって!」
その言葉に今まで抑えていた怒りが濁流のように溢れ出す。
バン!机が壊れたのではないかと思う程、大きな音を立てながら手を叩きつける。
「てめえらみたいなカスこっちから願い下げだ!そもそもここまで成功できてたのは全部俺のお陰だろうが!それを、1度か2度の失敗で吊し上げやがって。
その失敗だってお前が俺の命令通りに動いてれば失敗しなかったんだよ!!今度はお前らみたいな使えないカスどもよりもっと優秀なやつをパーティーに入れる。そうだ、そうだよ!今までなんで気付かなかったんだ。これで、やっとAランクまで辿り着ける!!」
レナードの怒鳴り声が響いた後、先ほどまで誰かしらが言の葉を発していた空間に静寂が訪れる。
なんだ。フレイあたりが言い返してくると思ったが、誰も何も言い返さないってことは今更理解できたのか。俺がいなくなったらこのパーティーが回らなくなることに。
もう遅いけどな。精々、この日を後悔しながら失敗続きの冒険を繰り広げてろ。
「じゃあな」
そうして、宿屋を出ようとするレナードにベルシャが口を開いた。
「待ちな」
「なんだよ」
「つまり、あんたは先のクエストで下した指示に間違いはなかったと言うんだね?」
「そうだ」
はぁと呆れたと言わんばかりの溜息を吐き、ベルシャは続ける。
「いいかい、先のクエスト達であたしらが本領を発揮できなかったのはロイの支援魔術がなかったからだ。そして、ロイが支援魔術を行使できなかったのは魔力切れが原因、ひいては魔力切れの状態でも功名心に駆られ行軍を辞めなかったあんたの責任だ」
「・・・確かに、魔力切れが原因で引き返すやつは少なくない。だが、それは小人数の場合だ。俺達のような中規模パーティーが引き返す理由にはなり得ない」
「ちゃんとカバーをしてればね」
ベルシャが今までの侮蔑に塗れた視線とは違う、敵意に塗れた視線を俺に向けてくる。
「あんたが魔力の回復も待たず、クエストを優先した所為でロイは重傷を負った。レナード、支援術士と司令塔、パーティーにとってどっちが大事か分かるかい?」
「どっちって、そりゃあリーダーに決まってんだろ。指示を出す奴がいなきゃパーティーは崩壊する」
「じゃあ、魔力切れの支援術士と万全の司令塔、どっちが大事だい?」
「そんなの、司令塔に決まってんだろ。指示がなければ、魔物は倒せない」
チッ、と舌打ちの音が響く。
「自分よりも仲間を優先しろとは言わない。でも、仲間より自分を優先するような奴に人がついてくるはずないだろう」
落ち着いた様子で話すベルシャに含まれた確かな怒りが、この場に溢れ出す。
確かに一般論で言えばこいつのいうことも一理ある。だが、クエストに一般論は通じない。臨機応変な対応が求められる。そんな時に、支持を出す者がころころ変わったら逆に混乱して全滅しかねない。
そんなことも分からないのか、この馬鹿は?
呆れていると、今度はフレイがこれまでの苛烈な口ぶりとは打って変わり落ち着いた様子で言葉を紡ぎ始めた。
「ロイが魔力切れの時、魔物に襲われた時が何度かあった。だけど、あなたは守るどころか心配する素振りも一切見せず魔物の討伐にご執心だった。そして、ロイは重傷を負った。パーティー全体のことを考えて自分を優先するならまだ理解できる。でも、あなたは自分の保身と手柄を優先しただけ。そんな奴にリーダーをやる資格はないし、仲間を大切にしない奴とは同じ空気も吸いたくない。・・・今すぐ消えて」
これまでフレイの瞳に映っていた侮蔑や失望は消え失せ、虫を見るような目を向けてくる。
ベルシャとフレイの言葉に何か言い返そうと、レナードは口をぱくぱくと動かしていたが結局何も言い返せずその場を後にした。
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どんっと空のグラスを机に叩きつける音と共に、レナードは酒場の店員に声を掛ける。
「おかわり」
「はいよ!エール一丁!」
溌剌とした掛け声が、わいわいがやがやと騒がしい店内にこだました。
ここは、数ある冒険者行きつけの酒場のうち<妖精の冒険譚>から最も離れた位置にある酒場、<豊亭>である。スラム街の近辺に位置するこの酒場には、酒に酔って暴れる客も多く毎日誰かしらが怪我をしている。
「おかわり」
「はいよ!」
先ほど注がれたエールをあっという間に飲み干し、酔いに身を任せる。
その後も注がれては飲み干し、注がれては飲み干しを数回繰り返すとふらふらの足どりで宿屋に向かう。
勘定を済ませ、自分の部屋に入るなりベッドの上に倒れ込む。
しかし、いつものようにすぐに眠りに付くことはできなかった。
レナードはそれからしばらく酒を飲んでは宿屋で床に就く生活を繰り返したが、やがて所持金が底を付くと数週間振りに冒険者ギルドに顔を出した。
相変わらず騒がしい場所だ。
レナードは併設している酒場で騒ぐ冒険者達を横目に、クエストが張り出されている掲示板に向かう。
この掲示板に張られているクエスト用紙を受付に持っていくことで、クエストを受領したことになる。そして、クエストにはランクが存在しており、自分の冒険者ランクと同じものしか受けられない。ちなみに、この冒険者ランクとはパーティー全体のランクを示しておりソロの場合は最期に所属していたパーティーの一段下のランクと見なされる。
Cランクのクエストで依頼金がマシなのは、ゴブリンの複数討伐(7匹、期限2日)、毒薬生成のための原材料採取(詳細は受付まで)、子供の家庭教師(期限1週間)、ってところか。
一番高いのは家庭教師だが、子供の為にクエストを発注する奴なんて貴族に決まってる。面倒事はごめんだ。ゴブリンと毒薬か。採取より討伐の方が気分が晴れそうだな。
レナードはゴブリンの集団討伐の用紙を掲示板から剥がすと、受付に向かった。
それにしても、依頼金がマシとはいえBランクの半分以下しかねえ。早急に仲間を集めて、帰り咲かねえとな。
「はい、こちらのクエストを受領ですね。かしこまりました」
受付嬢はたんたんと受理業務をこなす。
「手続きが完了致しました。冒険には、細心の注意を払い気を付けて行ってきてくださいね。それと、差し出がましいようなのですが、パーティーを組むことをお勧め致します。特に冒険にある程度慣れて来た中級冒険者の方は、新人よりも致死率は高いですからパーティーを組むことによって様々な危険を・・・」
少し心配そうな表情をしながら説明を続ける受付嬢をレナードはキッと睨みつつ、舌打ちをして話を遮った。
「そんなこと、言わなくても分かってんだよ」
余計なこと言ってないで、仕事だけしてろよ。
もう一度舌打ちをすると、レナードは不機嫌そうに冒険者ギルドを後にした。
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「ちょっと何あの冒険者!こっちがせっかく気にかけてやってんのに!!」
先ほどのやり取りを見ていた隣の受付を担当する猫耳の少女が、レナードを担当したエルフの少女に話かけた。
「冒険者も色々いるからね」
私は慣れたものだと言わんばかりに、別の書類仕事を始める。
「そうだけどさぁ」
隣の同僚は口を尖らせ、まだ納得がいってないような不満げな表情を見せている。
冒険者も様々だ。気性が荒い人もいれば誠実な人もいる。いちいち真にうけていたらきりがない。
依頼を受理し、完了報告を受けるまでが私の仕事だ。だけど、例えどんな人でも完了報告が聞けない時は悲しいし、やりきれない。
だから、どうかせめて私が担当した冒険者だけでも無事に帰ってきますように。
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