気付いたら勇者の仲間になっていた件
女性陣のおしゃべりに掛けるエネルギー量は凄まじく、そのままぶっ続けに俺はそれに付き合わされ、そろそろ夕食時になろうかという頃合い。アンジーとモイラに請われ、手の平サイズに小さくなって見せて、シルフと手を取って踊ったりして大受けしていた時、突然部屋に飛び込んで来る者が有った。
「ボニー、ここか⁈ 」
入って来たのは何とミント! 更に後ろからクリムもついて来ている。
「なな…何だ此処は、お前何こんなに女はべらしてんだよ!」
入って来るなり聞こえの悪い事を叫ぶミント。ま…まあ、小さくなって「かわい〜い」とか言われてちょっと調子に乗っていたのは否定出来ないが。てか、これで女性比率が更に上がってしまった。
「…ミント…だよな?」
「ありゃ、ペール先輩…と、コイーズ姉さん。」
「え、こっちがミント⁈ 」
一瞬場が混乱する。ペール姉弟はミントと面識が有るんだが、"地"の方のミントと会うのは初めてだ。だから最初ペールはミントとそっくりな顔で大人し気なクリムの方をミントだと思った様なのだ。一方実はこのミント、ぶりっ子をしていた以外にもペール達に言えない様な事をやらかしてる。まあそれについては相応のばちは当たっているが、やはりこの姉弟、特にコイーズに対しては後ろめたい気持ちも有るのだろう。
「え…っと、実はあの後ミントにも色々有ってね。もうすっかりやさぐれてしまったんだ。」
「そうなのか…。大変だったんだな。」
何をどう納得したのか、真っ直ぐ少年ペールは俺の苦しいフォローを本当にそのまま取って、むしろミントの境遇に同情したり…。お陰で俺の言い草に文句を言おうとしたミントが言葉を引っ込めている。
「いや、まあその代わり、今は生き別れの双子の姉や、腹違いの兄貴にも会えて、それなりの暮らしもしてる。」
俺は更にちょっとフォローを加えておく。
「そうなんだ、それで、今はまだビリジオンに?」
と、コイーズが質問。
「いや、今はエボニアム国にいる…ます。そこで姉妹仲良くやってます。」
大分しおらしくなって小さく答えるミント。クリムが横へ来てにっこり。あぁ、あの笑顔を見るとミントとは違うな…と俺も思う。
「エボニアム国…、あそこって大丈夫なのかい? 人族よりはましだとしても、あまり君らの様な…その、ハーフの人達が生き易い場所じゃ無いだろう?」
「エボニアム国は昔とは随分変わったんですよ。今はこのザキラム以上に人族にとって住み易いかも。もちろん私たちハーフの者にとっても。だって、今国を治めておられるのは、他ならぬボニー様なんですから。」
ペールの懸念に応えたのはクリムだった。さすが国王の妹、国の情勢にも目を向けている。ただエボニアム国が良くなったのは俺じゃなくて副官のジャコールが有能だったんだけど…。
「噂には聞いてたけど、そんなに良くなってるんだ、エボニアム国。」
マリーヴ教諭が感心した様にそう呟く。と、ミントがその教諭の言葉に何か引っ掛かりを見つけたか、少し調子を戻して言い放つ。
「いいやまだまださ、生活は楽じゃ無い。まだエボニアム国にはボニーが必要だ。だからあたいは此処へ来たんだ。あんたが此処に居着くとか言い出さない様になっ!」
何と! でもそれを聞いて何故ミント達が此処へ連れて来られたかは分かった。俺がこのパンプールにちょっと気持ちがある事がジンに見透かされていたんだろう。
「ボニーにとっとと自分の国へ戻って来いって迎えに来たんだ。て言うか、あんたが妙にこの学園に愛着が有る様だって兄貴から聞いて、どういう事かと思って来てみれば、何の事はねえ、原因は女かよ!」
いきなりのミントからの斜め上の指摘に俺は慌てる。
「ちょっ、待て待て、何か誤解が有る様だ。確かにここは友人も知り合いも多いし、心残りが有ったのは確かだ。でも、それは決して色恋絡みって訳じゃないぞ!」
「信用できるか! 何なんだよその"なり"はよ。」
「へ?」
「ちっさくなって、妖精さんとダンスとかして、かわいいとか言われてヤニ下がってるじゃないかよ!」
「いや…その…誤解…」
あれまずいな、これなんだか否定しきれない…。
「そのまま…エヘヘ、俺ここにいればモテモテだ。もう帰りたくないよぉ…とか、今にも言い出しそうじゃねーか!」
「そそそ…そんな事は…。」
ミントの怒涛の突っ込みに、何だか大分苦しくなって来た俺。
「まぁそれは仕方ないんじゃない、実際ここには彼を慕う可愛い女の子がこんなにいっぱい!…ってのは確かだもんね。」
アンジーが売り言葉に買い言葉でミントを煽り始めた。そして更にモイラを巻き込んで、俺に顔を近付けて、ニッコリ。あ〜こら、話がややこしくなる! と、気づけばコイーズと、更にキキさんまでしれっと参加している。学園の関係者じゃないだろあんたは! マリーヴ教諭はさすがにちょっと呆れている。
「あ、チキショウ。こっちだってあたいも、クリムだっているじゃねーか。ブランさんだって!」
いやいやいや。ブランにはジャコールが居るから…てか一体何を張り合ってるんだこの人達は! 別に俺相手に色恋沙汰なんてそもそも無いだろ!…無いよね?…。
「すごいですな。これが世に言う修羅場ってやつですクワな? これはこれで新鮮ですなぁ。」
おいネビルブ、お前は何楽しんでやがるんだよ!
「どうだ、話はまとまったか?」
「なんだか余計拗れてる様に見えるわね、主にあんたが送り込んだ"エージェント"のせいでね。」
ここで更にこの修羅場に入り込んで来た者達が居る。ジン・レオンとビオレッタ、そして勇者の…レダン氏だったか?が、ブロンゾ氏の案内で入って来たのだ。いやもう狭いって!
「うーん、我が妹達の魅力で引き戻せると思っていたが、学園側も中々揃えたものだな。」
と、ジン。やっぱりお前の差し金かよ!
「で、どうよボニー、実際あんたはかなりの魔法実力者、更にこの大陸ではほとんど操る者の居ない"天上魔法"まで身に付けてる。ここに残ってくれるなら、それなりのポストは用意するわよ。」
ビオレッタがいきなりの提案。既に召喚魔では無くなった俺がこのパンプールで何をするのかと思っていたが、外堀を埋められた。
「待て待て、こいつは仮にもエボニアム国の国王だぞ。他所の国に拠点を持つ訳にはいかんだろうが。」
ジンが反論する。本当はジンには関係無い話の筈だが、まあ、妹達を思っての事だろう。
「真の国王、エボニアムは昨日崩御したでしょ。此処にいるのは"ボニー"、別人よ。あっちはあのジャコールって副官が上手いことやるわよ。」
ビオレッタが反論を跳ね返す。まあ、正にその通りで、ジャコールにもミント達にも居て欲しいという様な事は言われるが、居たところで俺に何が出来る?…という思いは拭えない。ただその点は此処も一緒で、ポストを与えるとは言われても、俺が魔法を身に付けた経緯が特殊過ぎて、それを人に教えられる様な気がしない。どっちへ行くべきか…と、ついこの間迄の俺から見れば何と贅沢な…という様な悩みに頭を抱える俺。そんなさ中…。
「ねえ、そう言えばあなた、ボニーだっけ、かなりの魔法の使い手だし、腕っ節も強い、それに回復系の魔法まで使える中々の実力者よね。いっそ、わたし達のパーティーに入らない?」
「は?」
「え?」
「何?」
これまた予想だにしなかった第三の選択肢が思わぬ方向からもたらされた。ここまで傍観者を気取っていた勇者パーティーの女武闘家、キキさんが、いきなりぶっ込んで来たのだ。
「いやあ、さすがにそれは無しだろう。魔王四天王が転職して勇者パーティーって、余りに無節操過ぎやしないか?」
思考停止している俺に代わりジンがキキさんの案を否定しようとするが…。
「そんなの別に平気よねぇ。だって彼、"別人"だし。中身は人間でしょ? ねぇレダン。」
「…うん、有りだな! 今回の旅が終わったら、ホイットニーは教会に戻らなければならない、彼は教会内では割とお偉いさんだからな。その大きな穴を埋めるのに、ボニーなら申し分無い。」
何と、勇者自身も乗り気の様だ。
「ちょっと待ちなさいよ、勝手に決めないで! その申し分無い能力を欲してるのはこっちも同じなんだから!」
「そうだよ。酷いよキキさん!」
これに対抗して声を上げるパンプール組のビオレッタとアンジー。
「例えボニーがエボニアムじゃ無かったんだとしたって、こいつはもううちの国に無くてはならない奴なんだ。こいつはあたし等のだ! 戻って来るだろ、ボニー!」
と、今度はミントが参戦して来た。
「いやあ〜、ボニー様、モテモテでクエな。」
「べ…別にそういう話じゃ無いだろ…。」
ネビルブのいつもの軽口に突っ込む俺だが、何だろう、妙に目頭が熱い。ミントの"無くてはならない奴なんだ"という言葉が頭の中にいつ迄も響いている。
俺、この世界で"居場所"が出来ちゃった。それもこんなに幾つも…。今回この世から消え行こうとしていた俺が向かう先でたたずんで、俺を待ってくれていた父さん、今度こそ俺を迎え入れてくれるかと思ったのに、やっぱり拒否された。"止まれ"のポーズをとりながら、父さんが俺に向かって、「まだだ。まだ、此処はお前の来る場所じゃ無い!」と叫んでいたよね。あの時は少し悲しかったけど、今なら分かるよ、この事を伝えたかったんだね、俺の居場所はもう此処に有るって…。
ごめんね父さん、俺未だそっちへは行けないや。あと、父さんから貰った元の身体、粗末にしちゃってごめん。今はこんな似ても似つかない姿になっちゃったけど、父さんのくれた優しさはずっと持っておくつもりだから…。
「それで、お前はどうするんだよ、もちろんあたい達と一緒に自分の国に帰るんだろうな!」
と、ミントが詰めて来る。
「ボニーは此処に残りたいわよね。此処パンプールでまた一緒に学園生活を楽しみましょ。友達の数も質も、此処が一番でしょ⁈ 」
アンジーがモイラを連れ立って"おねだり"の目を俺に向けて来る。
「あなたの能力はね、現場でこそその真価を発揮するのよ。こんな小さな大陸の中だけじゃ、増してその中の一つの国に埋もれるなんて勿体無いよ。だから、わたし達と一緒に世界中へ冒険の旅に出ようよ!」
まるで運動部の勧誘みたいなテンションでキキさんとレダン氏が俺に向かって手を広げる。
「さあ、どうするんだよ⁈ 」
「どうしたいの、ボニー⁈ 」
「いい返事、貰えるんだろうね⁈ 」
「さあ! さあ! さあ!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと考えさせてえぇっ!」
人は多いわ皆んなヒートアップしてるわで部屋が酸欠を起こしそうな状況だったので、ブロンゾ氏が気を利かせて部屋の窓を開け放っていたのだが、その窓のひとつから空へ飛び出す俺。
「あ、逃げた!」
「てめ、この、ヘタレぇ!」
「こらー、優柔不断男ー!」
やれやれ、小さくなっていたお陰で逃げられた。さすがにこの選択は簡単じゃ無い。それにどれを選んでも角が立ちそうだし、多少なり後悔はするだろう。
と、俺を追ってやって来た者が…、やはりネビルブだ。まああの小さい窓からサッと飛び出せるのはこいつぐらいだろう。
「日和見ましたクワ、ボニー様? ここで逃げてもどうにもなりませんでしょうに…。」
追い付いてそう話し掛けて来るネビルブ。
「そうは言うけどな…、悩むだろこんなの! それぞれ義理だってあるし…。」
「贅沢な悩みですなぁ。いっそ好みの女子で決めたらいかがですクワ? モイラでもアンジーでも、或いはクリムでもコイーズでも。何ならキキ嬢や、あの女教師だっていいでしょう。まぁミントって事は無いでしょうグワ。」
「恐ろしいことを言うなお前! そんなの…、何をいい気になってるんだって総スカンを喰らうって落ちになるに決まっとるわ!」
「そうとは限らんと思いますグワね…。まぁ冗談はさておき、ボニー様自身が最もやってみたいと思う事を選ぶのがよろしいんではないですクワ? 」
「う〜ん、そう言われると、教師も政治もうまくやれる気はしないし…。そうなると冒険の旅かなぁ…。」
俺が何となく出した結論に、"やはり"という感じで笑い出すネビルブ。
「クワックワックワ…、確かに一番愉快そうではありますなぁ…。まぁさすがに勇者パーティーに加わるとなると、アタシがこのままお供するのもおかしいでしょうクワな…、大陸の外では大したアドバイスも出来ませんし…。」
と、そんな事を言い出すネビルブ。顔も声も敢えて無感情にしている様に見える。
「あれ、お前一緒に来ない気なのか? 今迄よりずっと新鮮で刺激的な旅になると思うぞ。お前そういうの大好物だと思ったのに。そうか来ないのか、残念だなぁ…。」
「行きます! 付いて行きます! ええどこ迄でも付いて行きますでクエよ!」
体裁を作るのも忘れ、パァッと喜色満面になるネビルブ。こいつはもう俺の永遠のバーターだ。
さて…、何となくどうするかは決まって来てるかな。あとはどう角を立てない様にするか、作戦を練らなくては、な…泣かれちゃったりするかな…、多分そこまでじゃ無いよね。世界を回ったら、いずれは帰って来るからって事で、何とか納得して貰おう。
「て、事で…、戻るか。」
「さて、ここから又修羅場の第二弾に突入しますクワな?」
さっきのしおらしさは何処へやら、ニヤニヤ顔のネビルブ。
「何を面白がってんだよ! うう…、何とか穏便に済んで欲しいけどなぁ、」
「無理だと思うでクエ。」
「とほほ〜、ブラックドラゴンとの決戦に向かう時より気が重いぜ…。」
この後、思い出したくも無い様な修羅場と、様々な挨拶、根回し、下準備を経て、俺はこの大陸の外へと旅立つ事になる。その後の冒険の日々については又別の話という事で、この魔大陸で俺が勇者に倒されてから、何故かその勇者の仲間になる迄の物語は一区切り、これにて終了としたいと思う。さあ、新たな旅支度だ!
ー気付いたら勇者に倒されていた件 完結ー




