最終決戦
突如開いたブラックドラゴンの5つ目の目、その中に封じ込められていた人影は、何と魔王様その人である様だった!
「おおゴルダ、何故…、もう異空間に逃げ込む力さえ残っていなかったのか? 」
さすがの神も焦りを隠せない。
俺にとっては初めて目にする魔王様のお姿、魔王と言われて思い浮かべたイメージとは大分違う、普通の人間の女性かと見まごう見た目だ。と言うか、"神の妹"というところから想像した姿の方が断然近い。やはり全くクセのない、作り物かと思える様な"出来過ぎた"美しさをたたえている。ただ何十年にも渡る苦行のせいか、不健康そうには見えてしまうか。
「グッグッグ…、どうだねワシの予備の魔法器官は。元々の自前の器官より制御効率はいいし、ワシ自身も随分と楽だ。さて、この予備の魔法器官も破壊するかね?」
そう奴が挑発して来る。その間にも魔王様を中に封じた奴の五番目の目が光を増す。
そして次の瞬間、勇者パーティーに向かってかまいたちが飛ぶ! しっかりと制御されたそれは、狙い過たず勇者達を捉えんとする。勇者はこれを何とか剣で弾き、女武闘家は軽技でギリギリ避けた。しかし長身戦士は避け切れず、深傷を負ってしまい、復活して直ぐまた戦闘不能に陥る羽目になっている。慌てて全員に魔法障壁を纏わせ直しながら、長身戦士の元に駆け付ける僧侶。
そんな勇者パーティーに更に追い討ちの魔法攻撃が入る。かまいたちはもちろん、雷やら炎やら次々に繰り出される攻撃魔法。当然俺にも同じものが飛んで来る。しかも魔法器官が変わった為か、魔力の波長が変わってしまってうまく吸収する事も出来ない。
それ等を必死に魔法障壁で防いでいると、その隙に爪や尻尾の物理攻撃が挟まれ、俺と勇者、そして黒衣の魔術師がそれを喰らってしまう。俺は何とか我慢して、勇者は辛うじて着込んだ防具で防いだ。だが魔術師は魔法の障壁を張っていて尚身長の数倍も吹っ飛ばされて、ボロ雑巾の様に地面に落下し、そのまま動かなくなる。
「あぁ、ブレックスまでっ、回復が追い付かん!」
悲鳴にも似た僧侶の叫び。
「四天王連中と違ってお前等勇者共は躊躇無く魔王様を害しかねないからな。先に潰しておく必要が有るだろうよ。」
そんな台詞を吐くブラックドラゴンは、すっかり余裕を取り戻してしまっている。
このままではまずい、こちら側の戦力はゴリゴリ削られている。一刻も早く魔王様にあそこから出ていただかないと。何とかもう一度アイボリオ神に魔王様と意思疎通を謀っていただくべきか…。
(駄目だ、ゴルダは今、あやつの中に完全に取り込まれて封印状態だ、外部との意思疎通は出来ないし、恐らく意識も無いのだろう。)
頭に響く神の声。そうか、今俺が頭で考えてる事は即神様に筒抜けだったんだっけ。それに念話での意思疎通なんてとっくにやってみてた訳だな…。
(無理矢理あやつの懐に潜り込んで魔力外殻に穴を開けるしか無いが、狙うべきがあやつの目である以上こっそり近付く事は不可能だ。第一あやつの魔力外殻を破るのは余程強力な攻撃でなけれは無理だが、魔法は通らないので直接物理的な攻撃をするしかない。それはもうほぼ特攻だ…。)
神の声は続く。そして俺はこの俺と神の"念話"が他の何者達かにモニターされていたのを感じていた。
そしてこの時点で大分くたびれ果てている様に見えるジンとビオレッタだったが、俺と神の念話の直後に動き出したのである。ビオレッタは死に損ない軍団の攻撃を敢えて無視し、魔法を練り始める。ジンも同じ様に防御を最低限にしながら剣に魔力を込め始める。そして死に損ない共の攻撃を受け止めながら、ビオレッタの魔法が発動、突然ボフッと現れた"闇"がブラックドラゴンの頭部を包み込む。あ、これは前に見た"闇"の魔法! もっとエグい攻撃系の魔法が飛ぶと思っていたが、確かこれはただの目眩しだよな…、と思っている目の端でその闇の塊に向かって飛び上がるジンの姿が見えた。
「え〜い鬱陶しい!」
闇に呑まれていたブラックドラゴンの頭部が光を放ったかと思うと、唐突に闇が消滅する。恐らく闇を相殺する光系の魔法を使ったのだろう、ブラックドラゴンの癖に。しかし、闇が晴れた時、その奴の頭部の目の前には剣を振りかぶったジン・レオンが居た!
『ガ⁈』
「てあぁーーっ!」
ズバァッ!
間を置かず振るわれるジンの豪剣。それは奴を取り巻く見えない壁を諸共に開いたばかりの奴の5つ目の目を切り裂いた。
『グギャオオオォ!』
絶叫するブラックドラゴン。腹立ち紛れに吐き出された瘴気をまともに浴びるジン。
「魔王様あああぁっ!」
全身を瘴気に侵されながら今度はジンが絶叫する。フライトユニットの翼も朽ちて、なす術無く墜落していく。
「魔王様アアーッ!」
気付けばボロボロになりながらもほぼ全ての死に損ないの兵士達を氷漬けにし終えたビオレッタも同じ様に絶叫する。
「ゴルダァーーーッ!」
アイボリオ神も叫ぶ。今は完全に妹の身を案ずる兄の顔だ。
「神様の力の源は人々の"祈りの力"だと言われるクエ。強い祈りを神である魔王様に届けて覚醒させようとしているんでクエ。」
そんなネビルブの解説を証明するかの様に、声に応えて目を開き、切り裂かれたブラックドラゴンの眼球から自力でスッと抜け出す魔王様、そのまま地上に落ちて行こうとする。
彼女を受け止めに駆け付けようと焦るが、もうまともに動けず駆け付けらないジンに代わり俺が飛んで行って受け止める。そんな場合じゃ無いとは分かってはいるが、ほぼ全裸の女性を抱き止めるのに少しドキドキする。そしてそのままアイボリオ神が身を隠す岩陰へと運ぶ。もう立ち上がる事もままならぬジンがこっちを見てほっとしているのが分かる。
「ぐぞおおおっ、ふざけおって、ふざけおってぇ〜っ!」
荒れ狂うブラックドラゴン、狂った様に瘴気を吐き出して暴れ回る。神とまで呼ばれたドラゴンが、あれではただの手負いのけものだ、ああなると惨めなもんだな…と、感傷に浸ってもいられない、あの巨体で暴れ回られただけでもそれはもう災害だ。
と、ここで一陣の風が吹き、ブラックドラゴンを覆い隠そうとしていた瘴気が一気に吹き飛ばされる。
「アンタは許さないわ、竜神エボニアム!」
風はビオレッタが魔法で起こしたものだった様だ。露わになる巨体。それに向かって今度は俺がボニー・サンダーをぶっ放す。
『グギャギャギャギャー!』
けたたましい咆哮の後、口から黒い瘴気ではなく、白い湯気を吐き出すブラックドラゴン。やはり! 今度こそ奴の魔法制御器官は完全に沈黙した様だ。
その様子を見て、ビオレッタも魔法を攻撃用に切り替える。最も得意だと言っていた氷結の魔法がバンバン飛び、奴の手が、足が、次々に氷漬けになる。そして動きを鈍らされたところに矢の様なつららが雨あられと襲いかかる。嵐のごとくの猛攻だ。もっとも内情としてはあまり得意でない魔法に魔力を裂く余裕がもう無いのかも…。
そして、案の定早々にビオレッタが息切れしてきた様子だったが、そこで突然、奴の胴の辺りで大爆発が起きる。何だ、またミサイルか? 一瞬そう思ったが、それは爆裂系の魔法の様だった。奴の体表のあちこちで次々に爆発が起きる。
魔法を放っていたのは、僧侶の努力により復活した黒衣の魔術師であった。ここまで自分だけ大したダメージを与えられないまま一方的に攻撃を喰らっていた苛立ちが爆発したかの様に、魔力コストの高そうな派手な魔法を大盤振る舞いしている。翼が折れ、爪やウロコが弾け飛び、黒い肉片が飛び散った。
俺はそこに駄目押しの最大出力のサンダーを叩き込む。至近距離に落雷したような轟音、怒りの雄叫びを上げたその姿勢のまま固まる竜神エボニアム。
刹那の間を置いた後、いきなりその身体が膨れ上がったかと思うと、弾ける様に爆発を起こす、サンダーで一気に熱せられた奴の体液が気化、水蒸気爆発を起こしたのだ!
周囲一面に飛び散るブラックドラゴンだったもの。爆発音、その後に雨の様に奴の破片が降り注ぐ音、それ等が止むと、一気に静寂が訪れる。ブラックドラゴンは既に跡形も無かった…。




