魔王様に接触せよ!
ミドナ火山の火口を目指して猛スピードで空を行く俺達一行。ただ結局ジュウベイは勇者パーティーを載せた事で余計にスピードは落ち、改めて引き離される事になっている。今は高性能の魔道具"フライト・ユニット"を装着して先頭をかっ飛ばすジン・レオン、自前の皮膜の翼でこれに追い縋る俺とビオレッタ、そしてどういう原理で飛んでいるのかも良く分からないが、ピッタリ我々に付いて滑空して来る神、アイボリオ様の4人だけで先行している。
「で、あんたって結局元々どういう奴だったの、この前までエボニアムが使ってたあの身体が元々のあんただったって事でしょ?」
道すがらそんな事を聞いて来るビオレッタ。
「どういう…って、まあ、人間だったな。」
「やっぱり、あんた元人族だったんだ。」
変に納得しているビオレッタ。
「というか、俺が元居た世界では、言語を話す生物は人間しか居なかった。魔族どころかエルフやドワーフさえ居なかったな。魔力とか瘴気とかも存在しない世界だったんだ。正直人族と魔族の間の確執とかあまりピンと来てない…かな。」
「なるほどね。あんたの種族に対しての妙にフラットなものの見方って、その辺から来てる訳ね。…因みに、あんたって実はいくつなの? あの見掛けだと結構若い?」
重ねてのビオレッタの質問。…これ、言うと、俺に対する皆んなの印象変わっちゃうんだろうなぁ…。
「17才になり…ます。」
「…はああ? 17って…人間の寿命が大体魔族の3分の1くらいだから…、若いどころかまるっきり子供じゃない!」
「クリムやミントと同世代ってところか。酒が飲めないのも当然だった訳だ。」
半分呆れた様子でジンが口を挟む。はいはい今まで小僧が生意気な口きいて申し訳有りませんでしたね。
「それはそうと、済まなかったな、あれはお前の体だったんだろう。怒りに任せて叩き潰してしまった。」
文句でも言われるかと思ったが、突然ジンに謝られ面食らう。
「ああ、まあ…、うん。」
「ひょっとしてお前の帰る所を奪ってしまった事になってしまったか?」
「まあ、それはもういいんだ…。」
遠慮して…という訳でも無くそう答える俺。正直自分でも驚く程かつてあの体で過ごしていた頃の生活に未練は無い。まぁ逃げ場が無くなったのは確かではあるが…。
さて、話をしながらも全速力で飛び、気付けばミドナ火山は目の前だ。
「ちょっと…、何あれ?」
ビオレッタの指し示す先に大軍団が待ち構えている。
「あれは魔王軍の兵達だな。何故未だあっち側に付いているんだ、魔王殿で指示を出していた魔王様が偽物だった件が伝わっておらんのか?」
「いや、違うぞあれは! 」
俺には見えた、居並ぶ兵士達の目が怪しげに赤い光を放っているのが。かつて見たあの色の目、あれは死に損ないの目だ!
「あれ全員、あいつの冥府魔法の餌食になったって事? 何て事を、ほぼ全軍じゃない!」
ビオレッタの声が怒りに震える。
「死に損ない軍団は私とビオレッタで引き受ける。アイボリオ様は、一刻も早く魔王様と念話を。ボニーはそのサポートに専念してくれ!」
会敵する両者。ビオレッタが苦手と断った上の炎の魔法を次々とぶっ放す。そして一気に広がった爆炎と混乱の只中に猛然と突っ込んで行くジン・レオン。
魔王軍兵士は決して雑魚では無い、大陸中から集められた腕に覚えの精鋭部隊だ。それが今は脳のリミッターを外され、死をも恐れぬ狂戦士の軍団と化している。焼くか爆散させるしか対処法も無く、四天王二人がかりでもギリギリの戦いが繰り広げられるだろう。
そんな前線から少し外れたところの岩陰に身を潜めた俺と神。日の傾きかけた時間にあって目立ち過ぎる神の後光を、俺の翼で包んでなるべく隠す。その中で目をつぶって集中する神、アイボリオ様。その強い"念"の言葉は側に居る俺の心にも響いて来る…。
(ゴルダ、ゴルダよ、聞こえるか? 我だ、アイボリオだ。)
反応は無い。これは時間が掛かるか? ブラックドラゴンのご本尊が動き出したら厄介だが…。
(ゴルダよ、我が妹よ、目覚めよ! そして瘴気を吐き出すのを一旦止め、我等の話を聞くのだ!)
更に強い念で呼び掛けるアイボリオ様。こりゃ隠れてるのは無駄かな? だが効果は有ったか、突然別の念が飛び込んで来る。
(ぐおおお…、うがああああ…)
それは声というより唸りに近い、苦悶の声。聞いているこっちの気が狂いそうな程に苦痛に悶え苦しむ声だった。
(止めよ! 今すぐ瘴気を止めるのだ! もう其方は充分頑張った。もう休むのだ!)
直接心の声だからだろうか。アイボリオ様の言葉が口で話した時に比べ、ちょっと感情的に聞こえる。
(うぐううぅ…、あ…兄…上…⁈ )
(そうだ、アイボリオだ。さあ、後の事は我に任せよ。そうそう、その調子だ。心を鎮めるのだ。ゆっくりゆっくり、呼吸を整え、心と身体を弛緩させるのだ。そうだそうだ、それで良いぞ。)
会話から推し量るより無いが、どうやら魔王様とのコミニュケーションは成り、瘴気の発生も止めさせる事が出来た様だ。火口から噴き出していた黒煙も、明らかに勢いが無くなって来ている。これで目的の一つは達成だ。
(其方はそのまま一旦異空間に避難して、身体の回復を図るのだ。そして、最も重要な事を伝える。目の前のブラックドラゴン、エボニアムを信用するな!)
最後にそう、アイボリオ様が強く念を送った。次の瞬間!
ドッゴオオオオオンッ!
轟音と共に、奴が、エボニアム本体が、巨大なブラックドラゴンが、火口上に姿を現した。その赤く光る4つの目は、今は殊更メラメラと怒りの炎を燃やしている様に見える。




