第65話「もう一人の転生者、仮面の下の素顔」
夜の静寂を破るように、窓が開いた。
蒼はすぐさま反応し、跳ね起きる。全身にぞわりと走る、かすかな殺気。
その気配は、蒼だけでなく、紅や楓、影(ZERO)までもを一瞬で目覚めさせた。
「出てこい、隠れても気配で分かる……誰だ?」
窓辺に立っていたのは、仮面の男。
黒ずくめの忍装束に、無機質な仮面。口を開くと、静かでありながら異様に響く声が部屋を満たした。
「久しいな、“烈火”」
蒼の身体がビクリと跳ねる。紅が即座に庇うように前に立った。
「こいつ、何者!?」
「……烈火って……私の、異世界での名前……」
仮面の男は、ゆっくりと仮面を外した。
そこにあったのは――
鏡に映る蒼自身のような、もう一つの顔だった。
「嘘……!?自分……!?いや、違う……似てるけど、違う」
「俺の名は“灰火”。烈火の片割れ――もう一つの魂だ」
仮面の男は語る。
異世界の終焉時、分裂した烈火の魂。
そのうち一つが“蒼”として現世に転生し、もう一つが“灰火”として異なる存在となった。
「お前は、全てを抱え込もうとしている」
「……は?」
「焚火の記憶、烈火の力、“蒼”としての感情と愛。
すべてを手に入れて、何を成す。何を守る」
灰火の問いは、どこか怒りにも似ていた。
蒼は一瞬、言葉に詰まるが――その手が、隣の紅の手をぎゅっと握る。
「守るんだよ、今を。“今の私”を信じてくれる仲間を。そして――紅を」
「……ふっ、愚かだ」
そう言いながらも、灰火の表情には、どこか満足そうな翳りが浮かんでいた。
(この力……まだ、目覚めていない)
蒼の身体の奥で、譲渡スキルが再び脈動する。
灰火はその気配に気づき、ふっと身を翻す。
「いずれ分かる。どちらが“本当の烈火”か……いや、“蒼”か」
そして、夜の闇に消えていった。
◆ ◆ ◆
次の日、宿を出る前に――
紅が蒼の肩にそっと寄りかかった。
「私さ……蒼が“烈火”じゃなくて、“蒼”でよかったって思ってる」
「……紅」
「だから、もし揺れそうになったら……私を見て。“今の蒼”を信じてるから」
その言葉に、蒼の胸の奥がまた熱くなった。
そして――紅の唇が、そっと蒼の唇に重なる。
「……えっ」
「あ、あっ、ちょ、朝から!?お前っ!!」
「えへへ。譲渡スキル、また進化するかもよ?」
蒼の身体がまた、少し……いや、かなりボリュームアップしたように感じたのは気のせいじゃなかった。




