第63話「烈火の記憶、そして仮面の男」
「――お久しぶりですね、“烈火”。」
仮面の男の声は、どこか懐かしく、そして禍々しかった。
蒼は一瞬、意識が揺らいだ。
瞼の裏に、かつての戦場がフラッシュバックする。
異世界での烈火としての記憶が、断片的に蘇る。
(あの男……かつて“影の軍”を率いた将軍、シュヴァルツ……!?)
だがその名を口にするより早く、
仮面の男は蒼のドレス姿を舐めるように見つめ、ニヤリと笑った。
「それにしても……その身体、実に艶やかだ」
「っ……!」
思わずドレスの胸元を押さえる蒼。
紅が一歩前に出て、蒼の前に立ちはだかった。
「蒼を……いや、私の大切な人を侮辱しないで!」
「おやおや……“護りたい”感情、スキルを育てるには充分すぎますねぇ……」
仮面の男はそのまま、静かに舞踏会の奥へと姿を消した。
◇ ◇ ◇
その夜。
王都の宿に戻った蒼と紅は、ベッドの上で向かい合っていた。
「なぁ……さっきは、ありがとう」
蒼が照れたように言うと、紅は微笑んで蒼の頬に指を滑らせる。
「蒼、強がってるけど……今、ちょっと震えてたでしょ?」
「そ、そんなこと……ないし!」
「でも、私にはわかるよ。だから、今日は甘えていいの」
紅がそっと蒼を抱き寄せた。
「……っ、ちょ、ちょっと、紅、顔が近――」
「……ねぇ蒼。私、ずっと蒼を守りたいって思ってた。でもそれだけじゃない……蒼を、もっと近くで感じたいって思ってたの」
(ちょ……なんか空気がやばい……やば……)
「……だから――」
紅の唇が近づく――そのとき!
「……お二人、風呂の順番……まだですか……?」
影ZEROがぬるっと襖から顔を出した。
「ぎゃああああああっ!?」
「……空気、読めませんでしたか……?」
「読めないよ!!空気じゃなくて、空気清浄機だよ君は!!」
◇ ◇ ◇
そしてその夜。
蒼の夢の中に、再び“焚火”が現れた。
「烈火……いまのあなたは“蒼”。だけど、その魂は変わらない」
「お前は……焚火?」
「ううん、私は“記憶”。あなたの中にある“願い”そのものよ」
夢の中で、焚火が静かに告げる。
「蒼、気をつけて。“仮面の男”が動き出す。あなたの力を“神格”と呼んでいる存在がいる」
「神格……?」
目覚めた蒼は、己の掌を見つめた。
(――俺は、何者なんだ?)
不安、愛、過去、未来。
それぞれの感情が交差する中、少女の身体を持つ蒼の心は、確かに“何か”へと変わり始めていた。
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