第56.5話「蒼の力を私に‥私のすべてを蒼に。」
月の光が射し込む静かな一室。
蒼と紅は、任務の前の束の間の時間を過ごしていた。
ふいに、紅が蒼の頬に触れる。
指先はかすかに震えていた。
「……どうしたの?」
蒼が微笑みながら問いかけると、紅は俯き、そして次の瞬間、意を決したように蒼の唇に自分の唇を重ねた。
熱く、切実な、真っ直ぐな口づけ。
驚いた蒼だったが、次第にその優しさと温もりに包まれていく。
唇が離れたあと、紅は少しだけ潤んだ瞳で、蒼を見つめた。
「ねえ……蒼。
あなたの力を私に、私のすべてを蒼に。
そうしたら、きっと何が来ても――ずっと一緒にいられるから……」
「紅……」
「ずっと、ずっと一緒なんだから」
その言葉に応えるように、蒼は静かに頷いた。
心臓が熱くなる。魂が重なる感覚。
その瞬間――
《スキル:譲渡(深化)──“絆の共鳴”が発動》
ふたりの身体に、ほのかな光が灯る。
そして“譲渡スキル”は、さらなる進化の兆しを見せ始めていた。
感情を力に変える“共鳴”。
それは、ただの“能力の共有”を超えた、魂の同調である。
「……ありがとう、紅」
「ううん、私のほうこそ」
二人は見つめ合い、手を取り合う。
この絆があれば、どんな敵にも、どんな闇にも負けはしない。
静寂を破るように、部屋の外から緊急招集の鐘が鳴り響いた。
――“それ”はもう近くにいる。
二人は、微笑み合いながら立ち上がった。
忍びの姿に身を包み、戦いの地へ向かうその背に、ためらいはなかった。
彼女たちは、もう“ひとり”ではない。




