第49話『姫との邂逅 ―リリスという名の鍵―』
王国――アルトリア。
幾重もの城壁に守られた美しい王都。その中央、王宮の塔から静かに外を見つめていた少女がいた。
その名は――リリス=アルトリア。
アルトリア王国第一皇女。だが、その瞳には笑顔も誇りも宿ってはいなかった。
「……また、護衛が来るのね」
そう言った彼女の声は、乾いていた。
彼女は病弱で、表舞台に出ることは滅多にない。だがそれは建前。
真実は、彼女が“禁術の血”を受け継いでいるからだった。
封じられた魔術。呪いとも呼ばれたその血筋は、王家の中でも忌避されていた。
だが同時に、それは特異な力の象徴でもあった。
そして、ジッという視線を感じた蒼は、その“護衛任務”の対象がただ者ではないと、会った瞬間に悟った。
「……あなたが、“蒼”?」
第一声から、彼女は蒼の“名”を呼んだ。
「なぜ……?」
蒼は反射的に身構える。
知られているはずのない情報。だが、その問いにリリスは微笑むだけ。
「あなたの“名”は、夢で聞いたわ。
――“烈火”という名前の少年が、私に教えてくれたの」
一瞬、空気が凍った。
「……何を、言ってる」
だがリリスは、そのまま視線を逸らさずに続けた。
「あなたは、“烈火”……違うかしら?
あの子が、私に言ったの。“もし、彼女に会ったら……必ず守ってあげて”って」
頭がグラリと揺れる。視界がぼやける。
“彼女”とは、誰のことか?
“あの子”とは、焚火か?それとも、蒼自身なのか?
そんな混乱の中、突然、城内に轟音が走った。
「襲撃!? 王宮に敵襲――! 魔族か!?」
護衛たちが慌てて走るなか、蒼はリリスを庇うように立ち塞がる。
「……大丈夫。私が、いるから」
背後には紅、楓、影が並ぶ。
「行くよ、蒼!」
「今回の敵、かなりヤバそうですね……」
「影、展開完了……迎撃、開始する」
リリスはその背に、かすかに震える指先を伸ばした。
「……また、夢で見ることができるかしら。あの、焚火って子にも……あなたの中に眠る、“もう一人”にも」
敵の影が迫る中、蒼の瞳が静かに、だが力強く燃えた。
「夢じゃない――今、私は“ここ”にいる」
そう呟いた蒼の鞭が、雷を纏いながら光を放った。




