第46話「月光の姫と、闇より来る者」
闇の裂け目から現れた異形の存在は、黒い仮面をつけたまま、無言で蒼たちを見据えていた。
空気が凍るような静寂。
「アレ……ただの魔物じゃない……!」
ZEROの瞳がギラリと光り、即座に刀を抜く。
「“記録にない存在”。異界の侵略者、か」
「この感じ……あの世界の臭いだ」
蒼の声が震える。
「まさか……“烈火”がいたあの異世界の……!」
蒼の脳裏に、断片的な記憶が蘇る。
――戦いの中で倒れ、命を落とした少年。
――異形と戦う運命を背負った魂。
――そして、焚火の笑顔と「生きて、誰かを守って」という願い。
「蒼ちゃん……」
紅が、少し不安そうに隣に立つ。
「大丈夫よ、私がいるから。あんたは一人じゃないわ」
(……一人じゃない)
蒼は深く息を吸い、目の前の敵へと視線を向けた。
「だったら、守るしかない……この世界も、姫も、仲間も」
――バシュッ!
蒼の鞭が解き放たれた。
今回は、かつてないほどの強さとしなやかさを持つ、“紅蓮の鞭装甲・煉”。
蒼の身体を包むようにして鞭が変形し、赤い装甲のような姿を形作る。
腕、脚、腰、そして胸部を優しく、しかし強靭に守る“武装”。
「行くわよ!!」
蒼の一撃が敵に炸裂。
だが、相手は驚くほど素早く、鋭い刃で反撃してくる。
「クッ……! はやいっ!」
「――紅、連携するわよ!」
「了解!」
紅の双剣が蒼の攻撃の隙を突くように飛び、ブーメランのように敵を追い詰める。
「楓!援護!」
「ぴっぴっ!暗視、熱探知、異常反応探知――出た!」
楓の眼鏡がきらりと光り、敵の動きを予測する。
「今よっ!」
バァン!
ZEROの大剣が敵の仮面を砕いた。
その下から現れたのは――
「烈火……っ!?」
いや、似ているだけだった。
かつての蒼(烈火)の顔を、何者かが模倣したような仮面の中の“空の器”。
「これは……“過去を喰う者”」
ZEROの声が低くなる。
「かつて滅びた魂を模して、生者の記憶に干渉し、恐怖を植え付ける存在よ」
敵は、烈火の記憶を引きずる蒼を苦しめる“幻影”だった。
「でも……あたしは、あたしを生きる!」
蒼が跳び、装甲ごとぶつかる!
「過去じゃない、今を選ぶ!」
――バシュッ!
鞭の一撃が、仮面を砕き、影が霧散する。
静寂。
そして、光が戻った。
「……蒼ちゃん」
紅が、ふわっと微笑む。
「……ごめん。あたし、あんたが過去を抱えてるの、少しだけ羨ましかった」
「……紅?」
「でも今は違う。私、今の“蒼”が好きよ。あんたが烈火だったとしても、焚火だったとしても、今ここにいる“蒼”が」
蒼は小さく、息を飲んだ。
そして、照れくさそうに。
「……そっか。ありがと、紅」
“今を生きる”――それは過去を超える唯一の力。
物語はまた一つ、未来に歩き出した。




