第39話「愛と記憶と、運命の引鉄」
夜が明けきる前の、静かな工房。
昨夜の戦闘の余波が残る中、蒼は湯浴みを済ませてから、自室へ戻ろうとしていた。
……が。
「あ、あのさ、蒼……その、背中、流すの手伝おうか?」
タオルを片手に、やってきたのは紅だった。
いつもの気丈な態度とは裏腹に、どこかそわそわしている。
「い、いや、もう風呂は上がっ──」
「うそ!? もっとゆっくりしなよ。じゃ、次私入るから、背中貸して!」
紅は、言い終わるよりも早く、するりと服を脱ぎ出した。
(お、おおおい!?)
紅の紅玉のような瞳、白い肌、そして……バスタオル一枚の姿。
「ど、どうしたんだよ!? いきなり!」
「ほら、昨夜の戦闘でさ……あんた、ちょっと傷あったし……その、ね?」
そう言って、紅は背中越しに泡を手に取り、蒼の肩にふわりと乗せた。
ぬるり……。
(くっ、この感触、まるで……違う意味での修行じゃねぇか!!)
思わず体が強ばる。だが、紅はまるで悪気なく――いや、ちょっとはあるのか――
指先で優しく、念入りに蒼の肩を撫でていた。
「ふふ……前より肩こってる?」
「そりゃ……お前が最近、距離近いから……」
「え? なに? 期待してるの?」
耳元で囁かれ、蒼の顔は一気に真っ赤に染まった。
だがその時――紅の指が、蒼の背中の“刻印”に触れた。
「……ここ、何? 火傷じゃないよね……」
蒼はびくりと肩を震わせる。
それは、烈火だった頃に受けた“運命の痕”――焚火を守った時のもの。
「……何でもない。昔の傷だ」
「そっか。……でもね、蒼」
紅は蒼の背に額を当てて、ぽつりと呟いた。
「私は、今の“蒼”が好き。前世とか、転生とか、関係ない。
あんたが、今ここにいて……私を見てくれてる。それが嬉しいんだ」
「……紅」
その声に、蒼は思わず振り返った。
目が合う。
距離が近い。
唇が……重なる。
それは、あの温泉での偶然のキスとは違って――
互いに“選んだ”口づけだった。
長い時間が流れたように思えた。
ふと我に返ると、蒼の“譲渡スキル”が発動していたようで、紅の胸元が――。
「……ちょっ!? 蒼っ!? また大きくなってない!?!?!?」
「ま、まって!? 今のは偶然だ!!スキル暴発!!たぶん!!」
「……この、変態!!」
ぱぁん!!
乾いた音が工房に響いた。
――こうして、愛とバトルとエロスが交差する日常は、また続いていくのだった。




