第37話「忍び寄る影、烈火と焚火の記憶」
深夜。
風が唸るように吹きすさぶ森の中。
その音に紛れるように、影がひとつ、宿の屋根へと忍び寄る。
――カッ。
仮面をつけた者が一人。黒装束に身を包み、目だけが鋭く光っていた。
その者は、静かに囁いた。
「……ついに見つけた。“転生者”よ」
◇
「ん……? な、なんだ……この夢……」
蒼は浅い眠りの中で、ある光景を見ていた。
焼け落ちる砦。
血まみれの自分の手。
遠くで泣く少女の声。
そして、火の中に立つ――もう一人の自分。
「……烈火、なのか……?」
かつての名を、口にした瞬間――
《焚火ッ!逃げろ!!》
《烈火ァ!置いていかないで!》
交錯する二つの記憶。
幼い少女の姿。愛おしい誰かの声。
そして、別れと死。
蒼の中に眠っていた、**“焚火”と“烈火”**の魂の痕跡が疼き始めていた。
◇
「蒼、起きて!敵襲よ!」
紅の叫びで飛び起きた蒼は、即座に鞭を手に取る。
「クソ……さっきの夢、何なんだ……!」
宿の外に出ると、既に戦闘は始まっていた。
黒装束の襲撃者たちが、複数。
「――貴様ら、何者だ!」
紅が双剣を構え、血走った目で敵を睨む。
「“彼”を……いや、“彼女”を、連れて帰るだけです」
仮面の男は、そう言って蒼を指差す。
「烈火様。焚火様。いずれにしても、お戻りいただきましょう――“主の元”へ」
「おいおい……どこで聞いた名前だよ……!」
動揺を隠せぬ蒼に、影(ZERO)が囁く。
「……彼らの声、なぜか聞き覚えがある。これは、あなたの“前の世界”と繋がってる可能性がある」
だが、蒼の身体はもう戦闘態勢に入っていた。
「だったら――話は後だ!」
鋭く走る蒼の鞭が、敵の一人に巻きつく。
その瞬間、鞭は黒光りし、硬質化。
「――《変化・鋼蛇鞭》!!」
鞭が鎖となり、敵を引き倒す。
さらに蒼の身体に巻きついた鞭は、**“鞭鎧”**として変化、身体を包む。
「おぉ……蒼ちゃん、ついにアーマーモード!」
楓が目を輝かせる。
「その格好、ちょっとエロすぎるけど……ま、今だけは許すわ」
紅も頬を赤らめながら、援護に回る。
だがその最中――敵の一人が、蒼に囁く。
「烈火様……私たちは、あなたを救いたいだけなのです。あの日の“約束”を、あなたは――忘れたのですか?」
その声に、蒼の脳裏に響く。
“あの日”、焚火に言った言葉。
そして、別れの前に交わした“誓い”。
――《必ず、お前を守る》
「う……うるせぇ!!」
怒鳴り、蒼はその敵を薙ぎ払う。
だが、敵の言葉は確かに、蒼の“魂の根幹”を揺らしていた。
◇
敵は退けた。
だが、蒼は戦いの余韻の中、膝をついたまま動けずにいた。
「……俺は……本当は、誰なんだ……」
紅が静かに近づき、蒼の背に手を置く。
「蒼。どんな過去があっても、今のあんたが、あたしの知ってる“蒼”なんだからね」
その言葉が、深く胸に染み渡った。
そして――蒼の中で、もうひとつの記憶が眠りから目覚めようとしていた。




