第36話「“愛の付与”ふたたび? 姫と紅、揺れる乙女心」
「――これは、感情の暴走によるスキル発動だな」
楓が眼鏡をクイッと上げながら、事も無げに告げた。
その瞬間、姫の身体から微かに放たれた光。
それは、かつて蒼が“紅”に対して発動した、**『愛の付与』**に酷似していた。
「まさか……また俺のスキルが暴走……?」
「蒼……お前さ、無自覚に“惚れさせる系チート”でも持ってんの?」
紅がジト目で睨む。しかも、何故か顔が赤い。
「……し、知らねぇよ!てか俺、惚れさせるつもりなんて――」
「ふぅん……でも、姫の胸、ちょっと盛られてない?」
「えっ、まじで!?」
たしかに、ほんのわずかに“豊か”になったような……。
「……これは確かに、“転写”の影響ですね」と楓。
「愛と想いを、肉体にも反映させる……すごいスキルだと思うよ?」と、ややニヤつきながら影が呟いた。
紅は腕を組んで顔を背ける。
「ふん、別にいいけど。どうせ蒼は鈍感だし。あたしなんか……」
「……ん?今、何か言ったか?」
「言ってない!!」
◆
その夜。
警護先の宿にて。
「蒼様。今日の出来事、私は一生忘れません……」
シズナ姫が、蒼の布団の隣に正座していた。
「……いや、寝ろよ。てか何で隣!? 忍の夜は早いんだぞ」
「この胸の高鳴り、どうすれば良いのです……?」
「知らねぇよ!!てか服着て!? なんで浴衣はだけてんの!?」
バサァッ!!
紅が障子を蹴破って登場。
「ちょっと姫、あたしの蒼になにしてんのよ!」
「“あたしの”とはどういう意味でしょうか?」
「い、意味とか別にないけど!あたしが先に惚れてたの!!……かも、しれないじゃん……」
「うぅぅぅ〜〜〜……やめてくれ、俺の精神がもたん……」
蒼は枕をかぶって叫んだ。
◆
その翌朝。
マッサージタイム。
楓が蒼の肩をぐいぐいと揉む。
「また凝ってるね、蒼ちゃん……姫様との接触で、緊張した?」
「いや……主に“胸”の重さのせいだと思う……」
「そうだね〜。でも紅ちゃんは“胸の代わりに気持ちの重さ”で勝負してるんだよ、きっと」
「……ああもう、なんなんだ俺の人生」
だが、その背後――
森の影に、再び“仮面の影”が現れ始めていた。
そして、蒼の記憶の底に沈む、“烈火”と“焚火”の名前が、じわりと浮かび上がろうとしていた。




