第29話「封印の真実と、焚火の目覚め」
深夜。静まり返る医務室のベッド。
微かに灯る魔灯の下で、蒼は額に汗を浮かべ、うなされていた。
(――痛い、胸が苦しい……)
(……いや、これは……“心”が、悲鳴をあげている……?)
彼の――いや、彼女の中に眠る“もう一つの記憶”が、激しく脈動していた。
◆ ◆ ◆
――異世界。焚火という少女がいた。
孤児だった。
その命は、異形の獣の暴走により、一瞬で奪われた。
だが、彼女の魂は消えなかった。
その小さくも純粋な想いは、異なる世界で命を終えた“烈火”と混ざり合い、一つの“魂”として新たな器に宿った。
目覚めたとき、蒼は女になっていた。
――だがそれは、偶然ではなかった。
(私は……“選ばれた”のか……?)
(いや、“試されている”?)
謎の師匠が言った言葉が、思い返される。
> 「魂が混ざり合う時、真なる力が目を覚ます」
> 「だが、同時に“扉”も開かれる――」
◆ ◆ ◆
突如、部屋の窓が軋む。
気配。敵――否、“違うもの”だ。
「……起きた、ね?」
現れたのは――影だった。
蒼の枕元に立ち、静かに呟いた。
「“焚火”が、囁いている。
……“自分を、思い出して”って」
その瞬間――蒼の視界がぐにゃりと歪んだ。
記憶が、解き放たれる。
彼女が何を見てきたか。
どんな絶望の中で、どんな光を見上げていたか。
異世界で、烈火として戦っていた時、焚火の声が何度も聞こえていたこと。
そして……焚火の“最後の願い”。
(――誰かの“役に立ちたい”)
(――誰かの“背中を守りたい”)
(――そのためなら、身体なんてどうでもいい)
「……ごめん、焚火」
「俺は……いや、“私たちは”……二人で一つだったんだな」
その瞬間、蒼の瞳が一瞬だけ――
青と紅、焚火と烈火の混ざり合った、**“紫の光”**を灯す。
影がそっと目を細める。
「ようやく、“あなた”に会えたね」
◆ ◆ ◆
翌朝。
蒼は、工房の訓練場で静かに拳を構えていた。
「……焚火。烈火。俺たちは、まだ終わってない。
これからだよな」
彼女の拳がゆっくりと構えられる。
蒼の後ろで、紅・楓・影、そして王国の姫エルネシアも静かに見守っていた。
その中で――影が小さく呟く。
「この気配……戦いの“本番”は、これから。
“あの存在”が……動き出す」
遠く離れた空。灰色の雲の中。
燃えるような“瞳”が、一瞬だけ煌いた――




