第26話「姫の恋と、過去の追跡者たち」
「今のは……烈火と呼んだ?」
影が静かに問いかけてきた。黒のフードの奥で、鋭い金の瞳が蒼を見据える。
蒼は短く頷いた。
「記憶が……少し戻った。あの男、“灰焔”の幹部だった奴に間違いない。烈火の頃、奴に仲間を……」
空気が重くなる。
その空気を打ち破ったのは、エルネシアの澄んだ声だった。
「ごめんなさい……私のせいで、あなたを危険な目に遭わせてしまったわ」
「違う、あんたは何も悪くない。それに……護衛が仕事だしな」
とっさに言葉を返したが、蒼は自分の鼓動が速くなっているのを自覚していた。
(なんで、こんなにドキドキしてんだ……俺、元男だぞ……?)
だが、視線を落とすと――
揺れるドレス、白い肩、潤んだ瞳。
エルネシアはあからさまに、蒼を“恋愛対象”として見ている。
「蒼様……もし、任務が終わっても……私の側にいてくださらない?」
「えっ……?」
不意を突かれた蒼は、動揺を隠せない。
その隣で紅がぐいっと蒼の耳元に寄る。
「……ふーん、姫さまの前では“イイ顔”するんだ? ねえ蒼、任務じゃなかったら……どうするの?」
紅の声がやや低く、熱っぽく揺れる。
思わず蒼の頬が赤くなる。
(あー!ダメだ、どっちも女の子だろ!?何で俺、こんなに翻弄されてんの!?)
一方――影(ZERO)はひとり静かに木陰で見守っていた。
「……恋愛……面倒……だが、任務記録としては有用」
ポツリと呟くと、眼帯の奥が一瞬だけ光を帯びた。
楓はというと、にやにや笑いながらでっかいハンマーを肩に担いでいる。
「ねぇねぇ蒼ちゃん? 今夜、姫さまとお部屋いっしょだったりする~?」
「やめてぇぇぇえぇぇ!!」
蒼の絶叫が、夕暮れの空に響いた。
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だがその夜――
蒼はひとり、工房の裏に佇んでいた。
手には、かすれた木札が握られていた。
そこには古い筆跡で、こう記されていた。
> 『烈火へ。お前が転生しても、必ず“焔の記憶”は甦る。焚火と共に、再び炎となれ。――灰焔』
「……ふざけんな。俺は……俺だ」
蒼は呟く。
「焚火も……烈火も……そして、蒼も。全部が、俺なんだよ」
その瞬間――木々の影から、黒装束の刺客が現れた。
だが次の瞬間、蒼の背に巻き付いた鞭がしなり、鋼のように変質する。
「――行くぜ、俺の“わがままボディ”!!」
身体強化、気力全開、そしてスキル【譲渡封印・怒りの焔】が目を覚ます。
蒼の瞳が、紅く燃えた。




