『異世界忍法帖』番外編14想い、気づく夜に」
夜風が森を撫で、木々の隙間から月が差し込んでいる。
任務帰りの野営地。簡素なテントの中、蒼は一人、横になっていた。
……が、胸の内は静かではなかった。
「……ったく、なんで一緒の任務で、寝床も一緒なんだよ……」
ぼやくように呟いて横を向くと、そこにはくつろぎながら髪をとかす紅の姿。
紅は蒼の視線に気づくと、にっと笑った。
「ん? そんなに見つめて、惚れた?」
「ば、バカっ……! そ、そんなわけ……」
「ふふ、冗談だって。けど――あんた、たまに、あたしのことすっごく見つめるよね」
その言葉に、蒼は心臓が跳ねるのを感じた。
――確かに、最近、よく見ていた。
紅の後ろ姿。笑顔。怒った顔。…任務に没頭する真剣な横顔。
なんでもない一瞬が、やけに目に焼き付いて、離れなかった。
(……あれはなんでなんだ?)
「ねぇ、蒼」
紅の声がふと、柔らかくなる。
「昔、言ったじゃん。あんたのこと、好きだって。……あれ、撤回しないから」
「……!」
「どっちの“蒼”でもいい。男だった頃のあんたでも、今のくノ一でも、あたしは……好き」
紅の視線が、真っ直ぐに刺さる。
逃げられない。
「……おれ、たぶん……いや、きっと――ずっと、お前を“気にしてた”」
蒼は言葉を搾り出すように呟く。
「任務で隣にいると安心するし、笑ってると妙に嬉しい。……誰かにからかわれてると、イラッとする。……それって、つまり――」
「好き、なんだよな……紅のこと」
紅が目を見開く。
しばらくの沈黙の後、小さく噛みしめるように呟いた。
「……ようやく、言ってくれた」
その瞬間――紅がそっと手を伸ばし、蒼の手を握る。
指先が、震えていた。
「ねぇ、蒼……今のままでも、いい?」
「……うん。今の“おれ”でも……“わたし”でも、構わないって思えるよ。紅がいるなら」
二人の間にあった境界が、少しだけ消える夜。
月明かりに照らされながら、蒼はようやく、自分の“心”のかたちに気づいたのだった。




