第21話:「影と光の境界 ―ZEROの過去―」
夜の稽古場に、影が差していた。
誰も近づかない訓練棟の奥。そこにひとり、黙々と木刀を振るう少女の姿がある。
影――ZERO。
無言のまま、まるで“自分自身”を斬るかのような鋭さで、刀を振り続けていた。
「……また、一人でやってるの?」
声をかけたのは、蒼だった。
「……問題ない」
返ってきたのは、いつも通りの棒読み。でも、その言葉の端に、どこか迷いのような、かすかな“揺れ”があった。
蒼は静かに歩み寄る。
「ねぇ、影――ZERO。ずっと気になってた。君の目……その眼帯の下には、何があるの?」
沈黙。
だが、やがて――ZEROはゆっくりと右手を伸ばし、眼帯を外す。
現れたのは、黄金の瞳。
異様な光を宿し、まるで“別の世界”を見通すような、深淵の色だった。
「これは、“神眼”。すべてを視る目――過去、未来、魂のかたち……そして、“死”の気配も」
「死の……気配?」
ZEROは木刀を下ろし、ぽつりと語りはじめた。
「……私は、実験施設の産物。かつて、人ならざるものとして作られた、“影”の存在だった」
「……え?」
「ある国の軍が、未来視を可能とする“完全予知眼”の研究をしていた。私はその試作体。“失敗作”だったけどね」
静かな口調の中に、氷のような痛みがあった。
「逃げ出したあと、この里に拾われた。“影”としての名を得て。私は、誰にも気づかれないように生きてきた。……でも、蒼、君だけは……なぜか、見えるように感じたんだ」
蒼は目を見開く。
「私が……?」
「君の中には、影と同じくらい深い“闇”がある。そして、同時に……抗う“光”もある。そんな人間は、初めてだった」
そのとき、風が吹いた。
訓練場の高窓から差し込む月光が、ZEROの金の眼に反射して輝く。
「なあ、影。私はさ……女になってから、ちょっと人生変わったけど。悪くないって思ってる。君も、これからだよ」
「……変わってないように見えて、変わっていく」
「それでいいのさ。だって、私たちは、**“KUNOICHI”**だからね」
ふと、ZEROの口元が――かすかに、笑った。
たった数ミリの変化。だがそれは、彼女にとっては世界が変わるほどの“前進”だった。
その夜、蒼とZEROは背中を預け合って、しばらく言葉を交わさぬまま、ただ静かに月を見上げていた。




