第17話:「神骨の祠と封印の鎖」
山深く、霧が立ち込める渓谷に、それはあった。
木々の間に埋もれるように存在する、小さな古祠。
「ここが……神骨の祠」
蒼が目を細める。
「封印は、完全に解かれていない。でも、扉は誰かが開けた」
楓が眼鏡の探知モードを起動する。レンズの奥で幾重もの術式が重なり合う。
「……中に“気配”がある。人でも獣でもない、でも……呼んでる。蒼ちゃんを」
「私を?」
「……やっぱり、お前は“器”なんだな」
ZEROが呟く。フードの下で、眼帯の奥の金色の瞳が僅かに震えた。
「器って、なんの……?」
そのとき、祠の奥から“声”が響いた。
> 『器よ。ここへ来い』
『忘れたのか、魂の“炎”よ――』
「この声……烈火……!? いや、違う……でも、懐かしい……!」
蒼の胸の奥で、何かが軋んだ。
思い出しかけていた異世界での記憶。
“烈火”という名の、自分だった存在。
剣を握り、血を流し、誰かを守り、そして……最期を迎えた。
「蒼、無理はするな。お前の気配が揺れてる」
紅が短剣を構える。その刃がわずかに伸び、警戒を示す。
「だいじょぶ……行くよ。私、知りたいの。
なんで女になったのか、なんでまた転生したのか。
そして、なにより――“私の魂が、誰かの器だ”って、どういう意味なのか!」
◆ ◆ ◆
祠の奥へと進む蒼たち。
その最奥には、奇妙な浮遊石が浮かび、光の鎖で繋がれていた。
「これは……封印の核。神の残骸の一部だよ」
楓が呟く。
そのとき、蒼の胸元に刻まれた印が、灼けるように光った。
> 『解キ放テ。我ノ残骸ヲ継グ者ヨ』
『“魂ノ記録者”トシテ、選バレシ者ヨ』
「っ!?」
蒼が膝をついた瞬間、視界が歪む。
――炎の渦。
――転生の扉。
――“烈火”の最期、そして目覚めた“焚火”の意識。
――二つの魂が交わり、今の“蒼”という存在が生まれた理由。
(私は……烈火であり、焚火だった。
でも今は、“蒼”として生きている)
「戻ってこい、蒼!」
紅の声。
ZEROの影が伸び、蒼を包む。
楓のハンマーが、最後の鎖を打ち砕く。
光が弾け――
蒼の中で、なにかが“覚醒”した。
「……これが……私の、新しい力……!」
蒼の右手に、炎と影が絡む鞭が現れる。
革でも、鎖でも、薔薇でもない――“想い”そのものをかたちにした武器。
「いくよ、みんな! 今度は、こっちから“問い返す”番だよ!」
「もちろんっ!」
「……全力、解放します」
「えへへ、ハンマー、大きくなってきちゃった……♡」
少女たちの戦いが、いま再び幕を開ける。