第16話:「少女たちの休日と、始まりの封印」
「行くわよっ、みんな~っ! 久々の任務ナシ休日っ!!」
紅の掛け声とともに、蒼たち四人は温泉郷へと向かった。
山あいに佇む隠れ里、《湯隠れの湯》。かつて隠密忍者たちが療養に訪れていたという伝説の秘湯である。
「ふぅ……やっぱり肩が……こる……」
浴衣姿の蒼は、肩をぐるぐる回す。
「それ、絶対お胸のせいだよね……」
楓がメガネを押し上げながら、柔らかな笑みを浮かべた。
「…………(こくり)」
ZEROは、無言で大きく頷いた。
「紅……何か言ってよ……」
「そ、そんなの……! わたしだって……成長期だから!」
紅は思わず胸を押さえるも、あまりの控えめさに自滅。
湯けむりの中、四人のくノ一が露天風呂で並ぶ。
それぞれが、ふぅ……と湯に溶けていくような声を漏らす。
蒼の白い肌に、水面がふわりと跳ねた。
そのとき、背中に誰かの手が。
「蒼ちゃん、背中、流しましょうか」
「か、楓!? そんな、お構いなくって……あ、くすぐったい!」
「ふふ、綺麗なお背中ですね。……背中は、心が映る場所なんですよ」
「蒼、耳が真っ赤」
ZEROがぽつりと呟いた。見つめるその眼帯の奥には、金色の光がほんのりと揺れていた――。
◆ ◆ ◆
その夜、蒼は湯上がりの縁側で風に当たっていた。
(……転生して、忍者になって、女の子になって。
だけど、私――楽しいって、思ってる)
不意に、すぐ隣にZEROが座る。
「……師匠の気配が消えた」
「うん、私も……なんとなく感じてる」
そのとき、風鈴が鳴るような音とともに、空気が凍った。
蒼の身体に、再びあの“契印”が浮かぶ。
「来るぞ――“封印”のひとつが、解かれようとしてる」
「封印……?」
ZEROの左目が光を放つ。
「この世界は、もともと“神の影”が創った牢獄。
その封印がいま、誰かの手で壊されている」
「まさか……あたしたちが、封印の中心にいるってこと……?」
その時、温泉郷の奥にある山腹で轟音が響く。
古びた祠の扉が、誰にも知られず、そっと開いた。
◆ ◆ ◆
翌朝、任務の急報が下る。
湯隠れの里にて、異変発生――
封印の地《神骨の祠》が開かれたとの報告。
蒼はぐっと拳を握る。
「……休暇、終わりだね」
「ふふ……それじゃ、暴れてもいい?」
「蒼の新技も、見られるかな……」
「ZERO、眼帯……ずらさないでね。危ないから」
少女たちの湯けむり休暇は、束の間だった。
だが――
これがすべての“始まり”であることを、
このときの蒼はまだ知らなかった。