第14話:「双腕カゲツ、忍法“千手縛鎖”の罠」
深夜、霧の立ちこめる廃寺。
そこに、蒼、紅、楓、ZEROの4人が潜んでいた。
「……奴は、ここにいる」
ZEROが呟く。
「警戒して、蒼。さっきから結界の匂いがする」
楓が眼鏡を調整しながら周囲を見回す。
そのとき――ズズン、と地を這うような気配。
四方から霊気混じりの鎖が飛び出した!
「なっ――!? くっ……う、動かないッ……!」
蒼の四肢が、まるで意志を持った縄のように絡め取られる。
「ほほう……伝説の“転生者”とはこの程度か」
低く甘い女の声。
屋根の上から、双腕のカゲツが現れた。
片腕は通常の忍び装束。
もう片方は、鎖と刃が融合した異形の腕だった。
「拙者の忍法《千手縛鎖》……ははっ、くノ一を縛るには美しい技だろう?」
「くっ……へ、変態かよ!」
「その体、惜しいな。貴様が“男”だったら、殺していた。だが女となれば……ふふ、壊すのは“もっとあと”で良い」
紅が叫ぶ。
「蒼、手を伸ばして! あなたの――鞭!」
蒼の腰に巻かれた鞭が光る。
その瞬間、彼女の気持ちが高ぶり、鞭が変質した!
《刺薔薇の鞭》発動――!
革が刺のついた金属へ変わり、鎖を絡め返す!
「うぉっ!? な、なにこれ!?……自分の足にからまっ……ひゃあッ!!」
ぐるんと宙を舞って自爆しかける蒼。
しかし――
「バカッ、こっち飛んで来るな!」
紅がそれを短剣で切断、フォロー。
「そ、そんなの、急に変形するなんて聞いてないし!」
「気持ち高ぶりすぎなんだって!」
楓のツッコミが入り、ZEROは無言で首を振った。
そのドタバタの最中にも、敵の術は迫る。
廃寺の内部にはさらなる罠――
巨大な封印陣が眠っていた。
「……そこだ!」
蒼の鞭が、ようやく正確に伸び、敵の異形腕を絡め取る!
「やったか――!?」
その瞬間、カゲツの眼が光った。
「甘い!」
――腕が切り離され、爆ぜる!
爆煙が舞い、誰かの悲鳴が響く。
「楓ッ!?」
紅が叫ぶ――が、爆煙の中で、誰かが立ち上がった。
「だ、大丈夫……ハンマーが……クッションに……」
巨大ハンマー“打出の小槌”が、彼女を庇っていた。
「はぁっ……びっくりしたぁ……髪、燃えかけたよ……」
蒼は一瞬、冷静さを取り戻す。
(あの腕、分離可能……くそっ、情報不足)
しかし、確かに手応えはあった。
蒼は己の胸元を押さえ、意を決する。
「行くよ――!」
次の瞬間――
蒼の鞭が、鋼の薔薇のように煌めいた。
「忍法・千薔薇乱舞!」
激しい突風と共に、鞭が“花びら”のように分裂し、敵を包み込む!
「ぬうっ……!? 貴様……まさか、それは“烈火”の――!」
カゲツの声が止まった。
薔薇の鞭が、封印陣を打ち破り、光が漏れ出す――!
(記憶が……よみがえる……)
蒼の頭に走る、記憶の断片。
烈火として生きた、異世界での最期。
自分を守って死んだ仲間の影。
交錯する、幾重もの“転生”の記憶。
(私は――誰?)
そして、誰かの声が重なる。
《蒼……目覚めよ、我が半身よ――》
――続く。