第78話『神殺しと、記憶の終点』
水晶の空が割れた。
“記録の棺”から這い出した黒い影が、空間を喰い、地を裂きながら蠢いていく。
「これは……記録の神の“残骸”?」
蒼が思わず呟く。
影は形を持たぬまま、囁きのような声を上げる。
「記憶は呪い……。記録とは檻。
おまえたちの願いは、書き換えられた幻想にすぎぬ……」
その声は、イグナ――蒼自身の“始まりの記録”にも似ていた。
ZEROが目を細め、静かに囁く。
「……これは、“神の記録編集体”――
イグナの魂を利用し、神が造り上げた最終防衛機構」
蒼の瞳に焰が宿る。烈火として、焚火として、そして今――“蒼”として。
「俺の記録を勝手に書き換えた存在が……神だっていうのか」
紅がそっと背に手を置いた。
「なら、一緒に書き直せばいい。あなたの、ほんとうの記録を」
楓が眼鏡を煌めかせて叫ぶ。
「地脈から、記録干渉の揺れを検出! 書き換え地点まで、もうすぐよ!」
影が飛び出す。
「その神、消す。……わたしの手で」
4人の力が、完全に揃った瞬間――
蒼の鞭が変貌する。
《記憶武装・最終形態:焔鎖装“イグナ・エクスチェイン”》
炎のような鞭が蒼の身体に絡みつき、神装鎧となって蒼を包み込む。
「これが……俺の、私の、“記録”だ!」
そして戦いが始まる。
神そのもののような黒い影を前に、
蒼の鞭が、紅の双剣が、楓の巨大ハンマーが、ZEROの影剣が閃く。
神の声が、彼らの記憶を剥がそうと囁くたび――
紅の叫びが、それを塗り潰す。
「私は蒼を、愛してる! 記憶なんて関係ない!」
ZEROが静かに呟く。
「わたしの記録も、書き換えてみるがいい。……おまえには、耐えられない」
神の記録体が悲鳴を上げる。
「おまえたちの記録は、矛盾だ。秩序の敵……消えろ……!」
だが。
蒼の叫びが、それを断ち切る。
「この世界を、俺たちは“愛して”生きてきた!
記録なんかに、誰が従うかあああああっ!」
《スキル発動:譲渡スキル・最終進化》
紅とZERO、楓の全力が蒼に集約される。
“記録統合・真名解放”
――その瞬間、神の記録体は蒼の姿に変わった。
「これが……イグナ……?」
蒼が見据える“神の影”は、自分のもう一つの可能性――狂った記録の果てだった。
「だから俺は、俺を殺す」
神の影を纏ったもう一人の蒼――イグナを、
蒼はその手で、愛と絆の記憶を込めた焔の鞭で包み込む。
「さよならだ。“書き換えられた”俺」
一閃。
闇が光に呑まれ、記録の神域が崩壊していく。
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全てが終わったあと、蒼はそっと目を閉じた。
そして――紅に微笑む。
「……今度こそ、やっと、俺たちは“始まる”んだな」
紅は黙って頷き、蒼の手を握った。
「現世でも、来世でも、私が見つけるって言ったでしょ?」
そして仲間たちは――
新たな記録を、共に綴り始める。