第13話:「紅の刀、影の瞳 ―忍び、動くとき―」
夕暮れの訓練場。
赤く染まった空に、ふたつの影が舞う。
シュッ――!
鋭く閃く双剣。その操り手は紅。
長身でスレンダーな体格ながら、疾風のような動きで敵を翻弄する。
「……今日はキレがいいな、紅」
ZEROが静かに言う。黒髪に風が流れ、片目の眼帯が揺れる。
「明日、出るってさ。師匠が言ってたでしょ。任務、正式決定だって」
「“影刃党”の間者、確保。現世への転送術式の阻止……」
「“術式の媒介”が街に運び込まれたんだって。……多分、誰かの体内に」
紅は短剣を握りしめた。
「まさか、人柱?」
ZEROは頷いた。
「だから、私たちは“忍び”である。守るために、迷わない」
◆
その夜、蒼は自室で胸に手を当てていた。
(……なぜ、こうも胸が張って苦しいのか)
それは物理的な問題と、もう一つの理由があった。
“懐かしい声”が、また夢に現れたのだ。
――烈火。
少年の名。蒼の前世。
しかし、それ以前の記憶もある。
「パルクールの蒼」――現代の記憶。
異世界の忍者「烈火」――その記憶。
そして今、くノ一「蒼」。
(……これで、三度目……?)
転生。記憶。繰り返される命の連鎖。
何かが“結び直されている”ような違和感。
そこに、ノックの音。
「蒼、ちょっといいか?」
紅が、湯上りのタオル姿で現れた。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと待って!今、ブラ外してて……って、何であんたまでバスタオル姿よっ!」
「だって、女子寮、風呂は共同だし?」
紅は意外とあっけらかんとしていた。
「ほら、明日動くから、体ほぐし合おうって。ね? 背中流すよ」
「いやいや、そんな百合展開みたいな!」
「じゃあ、肩だけでもほぐすね♡ ……うわ、やっぱこの肩、凝ってる! 胸が重すぎるんだよ、これ!」
「やめろおおおおおッッ!!!」
騒ぎの中、ZEROが部屋の前を静かに通り過ぎた。
「……明日は、動く」
◆
任務当日。
くノ一たちは黒装束に身を包み、闇へと消えていった。
そして――
その夜、敵は姿を現す。
“影刃党・双腕のカゲツ”
異形の腕を持つ女忍。
その影が、蒼たちの前に立ちはだかる。
「……来たか」
蒼の身体に、かつての記憶が再び疼く。
(お前は……異世界で、俺が倒したはずの――)
「ようやく、会えたね。“転生者”……いや、“烈火”?」
蒼の名を、カゲツは知っていた。
(なぜ……?)
謎が深まる。宿命の戦いが、幕を開ける。