第75話『神記の塔、そして“神殺し”の予兆』
記録の棺から得た《創記》と指輪――
それは単なる愛の証にとどまらず、“神の記録”に連なる鍵だった。
蒼たちは、次なる目的地として告げられた地へと足を運ぶ。
その名も――「神記の塔」。
◆ ◆ ◆
神記の塔へ向かう途中の山道。
荷馬車に揺られながら、珍しく沈黙していた紅が、ぽつりと呟く。
「ねぇ、蒼。あの指輪のことだけど……」
「……後悔してるか?」
「ば、ばかっ。そうじゃない!」
真っ赤になって視線を逸らす紅の頭を、蒼がぽんと撫でる。
「安心しろ。お前以外、指輪を渡す気はねえから」
「うぅ……もう、好きすぎて困る……!」
一方、後方の馬車内では、楓が目を光らせていた。
「むむむ……またですか、イチャイチャ!」
「……蒼の身体サイズ、ちょっと変わってるわよね? あの“共鳴進化”……観察しがいがあるわ」
「やめて!私の身体、そんな研究対象みたいにしないで!」
「ちょっと触診だけー。ちょっとだけー」
「やめろォォォ!」
どたばたと馬車が揺れ、ZEROが呟く。
「……騒がしい。けど……悪くない」
◆ ◆ ◆
そして、辿り着いた神記の塔。
塔は空へ向かって幾重にも重なりそびえ立ち、石壁には古代語が刻まれていた。
ZEROが右目の眼帯を外す。
「ここは、“記録の上書き”が行われる場所。
神が、人の記録を“創り変える”場所」
「つまり……ここを制すれば、過去も、未来も、自分のものにできる?」
「……ああ、だが同時に、“本物の神”が君臨する場所でもある」
塔の扉が開く――その奥から、風が吹き出した。
その風に、懐かしい声が混じる。
> 「……イグナ……また会えるのね……?」
蒼は思わず立ち止まる。
その声の主は、記録石で見た、あの“最初の紅”に酷似していた。
だが、それは“紅”ではなかった。
ZEROが即座に抜刀する。
「気をつけて。……これは“偽記”。記録を模した偽物。
記録を守る“番人”だわ」
敵は微笑みながら、虚ろな声で告げる。
> 「あなたの記憶、私が全部、もらってあげる――」
霧が巻き上がり、戦いの火蓋が再び切って落とされた。