第73話『記録修正者との激突 ― 四つ巴の誓い』
霧が立ち込める“記憶の始原地”を覆うように、黒い人影が次々と現れた。
「記録の矛盾、確認」
「対象:“烈火”由来の記憶保有者、及び関連個体」
無機質な声が空間に響く。
現れたのは、漆黒の仮面と外套に身を包んだ集団――**“記録修正者”**と呼ばれる存在だった。
その目には、感情の色が一切ない。
「……あれが、“記録を消す者”たち」
ZEROが呟くと同時に、右目のオッドアイが淡く輝いた。
「来るぞ、蒼!」
紅が双剣を構え、蒼の背中を守る。
蒼はアーマー化した鞭を手に、静かに頷いた。
◆ ◆ ◆
――激突。
戦闘は瞬時に始まった。
蒼の鞭が空を裂く。革の鞭から鎖へ、そして黒薔薇の刺へと変化し、敵を絡め取る。
「はああああっ!!」
蒼の気合と共に、アーマーの一部が変形し、右肩と腰回りに防御装甲を展開。
それは、“戦う女神”を思わせるほど艶やかで、力強い姿。
だが、強敵に巻き付きすぎた鞭が――味方の胸に巻き付きそうになる。
「ちょ、蒼! またなの!? そっちは私の――っ!」
「ご、ごめん楓!! 狙ってない!いやむしろ避けてるのに!」
「……でも、なんかちょっと気持ち良かったかも……(小声)」
楓のボインが震え、なぜかハンマーが巨大化。
気まずさと共に、ぶんぶん振り回される小槌が敵を吹き飛ばす!
「うわっ!? もうわけわかんねえ!!」
ZEROは静かにフードを下ろし、コートの鎖を外す。
漆黒の髪がなびき、白きゴスロリ装束が現れる。
「開眼、神目――再定義」
黄金の瞳が、修正者の動きを先読みし、影が敵の背後を穿つ。
「対象、無力化」
紅の双剣はすでに薙刀の形へ。
「蒼! もう一丁、合わせるよ!」
「いくよ、紅!」
二人の息が、完全に重なる。
その瞬間、**“譲渡スキル”**が反応。紅の刃に、蒼の魔力が流れ込む!
――双剣が紅蓮に包まれ、記録修正者を一刀両断!
「“紅蓮交響斬”――!」
爆発の余波が遺跡を震わせ、修正者の仮面が砕け散る。
だが最後に、一人の修正者が呟いた。
「……“最初の記録”は……まだ……終わっていない……」
◆ ◆ ◆
戦いが終わったあと、遺跡の中心に一つの“記録石”が残されていた。
そこに刻まれていた名は――
“イグナ=烈火=創記の者”
蒼の目が、僅かに揺れる。
「これが……私の……最初の名前……?」
その瞬間、彼女の心に、かすかな炎が灯った。
「私は、過去に何度も死に、何度も愛して、何度も忘れてきた……」
「でも――今ここにいる私は、“蒼”だ」
蒼は仲間たちを振り返る。
紅は、まっすぐな目で彼女を見つめ、手を差し出した。
「だったらその先も、一緒に見よう」
「……ああ。必ず、一緒に」
手と手が重なるそのとき、蒼の胸元が僅かに震え、アーマーが柔らかく光を放った。
それは“新たなスキル進化”の予兆だった。