第70話「記録の創造主、神の名を持たぬ者」
「……君たちの存在そのものを書き換える」
その声は、どこまでも静かで、冷たい水のようだった。
蒼たちの前に現れた“白き者”。
彼の名は告げられない。というより、彼は“名前”を持っていない。
「私は名を捨てた。記録の外に立ち、全てを編集する存在――“記録の創造主”」
ZEROが鋭く睨む。
「創造主……でもあなたは、神ではない」
「神とは、物語に干渉せず、祈られ、信じられる存在。
私は違う。“観察し、修正し、捨てる”だけ。物語の安定と終焉こそが私の目的」
蒼は一歩、前に出た。
「終焉だって? 私たちの生き方を、“書き換える”だけの存在に、何がわかる!」
創造主は指を鳴らすと、空間がひしゃげた。
楓の眼鏡が一瞬、映像の乱れを起こす。
「空間軸、時間軸、遡行――全部編集可能……っ。これは、本当にやばいレベルよ、蒼!」
紅が双剣を構えた。
「関係ないわ。私たちは、ここで“蒼”を守るために戦う」
蒼は深く息を吸い、目を閉じる。
「ありがとう、みんな……。でも今回は、私自身が、私の記録を守る!」
その瞬間――
記録石板から光が放たれ、蒼の身体がふわりと浮かび上がる。
紅と手を繋ぎ、ZERO、楓と心を一つにした時――
《共鳴スキル発動:四象記録結界 ―“現実固定”》
世界の書き換えを一時的に無効化する結界が張られた。
「これは……!?」
創造主が驚きに目を見開く。否、目があるならの話だが。
「記録とは、記されるだけのものではない。
私たちが、今を生きて、愛して、紡いでいくものなのよ!」
蒼が叫ぶ。
そして――
創造主が、ついに攻撃の構えを取る。
彼の背後に浮かぶは、“巨大な羽ペン”と“白紙の書板”。
「では――君たちの“存在”を削除しよう。筆を以て、物語を終える」
「させないっ!!」
蒼が先んじて飛び込む。
背中の鞭は、蒼い光を放ち、アーマーとして蒼の身体に巻き付き――
《鞭装具形態進化:深青ノ鎧》発動!
紅が雷を纏う剣を携え、零が漆黒の影を纏い、楓が打出の小槌を巨大化させる。
4人の力が、創造主の一撃と激突する――!!
世界が、軋んだ。
そして、戦いの幕が、ついに切って落とされた――。