番外編:眠りの棺と、記録されし初恋
静かな朝。宮殿の一室、薄明かりの中――蒼は一人、椅子に座っていた。
目の前には、昨夜の騒動の原因でもある“記録の棺”。
触れれば、記憶が蘇る。
「開けたら……もう後戻りできない気がする」
迷いの中、そっと手を伸ばしかけた瞬間――
棺が、ひとりでに開き始めた。
《記録再生開始》
目の前に広がったのは、まるで映画のような映像――
異なる世界、異なる名前、そして異なる――恋。
蒼(烈火)は、騎士団に所属する青年だった。
焔のように熱く、真っ直ぐで、仲間思い。
その隣には、見習い神官の少女――紅によく似た、しかし名前の違う少女が寄り添っていた。
「焔さま、また無茶して……!」
「はは、だってお前が泣く顔なんて、見たくないからな」
手を取る、唇が触れそうな距離――
蒼「……これって、俺……いや、“私”が……紅に?」
画面の中で、二人は確かに惹かれ合っていた。
だが、最後は――焔(蒼)の命と引き換えに、少女を守る結末だった。
《記録終了》
蒼は静かに棺に触れ、呟いた。
「やっぱり……俺たち、前世でも“好き”だったんだな……」
その時、後ろからそっと抱きしめる腕。
紅だった。
「見てたわ。全部……あれがあなたの過去」
「でも、私は今の“蒼”が好きよ。前世も、現世も、来世も――私の“全部”なんだから」
蒼の胸が、きゅっと締めつけられる。
そっと振り返ると、紅が微笑み、そっと唇を寄せてきた。
「契約でも、忍法でも、スキルでもない。これは“愛”っていうのよ」
唇が重なり、記録の棺がふたたび静かに閉じた。
まるで、“再び始まる恋”を祝福するかのように。
──その夜、隣室で眠れなかった楓が呟いた。
「ねえZERO……このままじゃ、蒼と紅って……もう“そういう関係”じゃないです?」
「……観測結果、限界突破。状況:恋愛戦争。対象:蒼。関係者全員、戦闘準備」
「私も……そろそろ本気、出そうかしら」
──恋も記憶も、戦いも――すべてが、ひとつに繋がっていく。