番外編 続:夜会と姫の本音 ――そして、過去が揺らぐ時
夜も更け、月明かりが離宮の庭園を静かに照らす。
蒼はなぜか一人、宮殿のバルコニーにいた。
蒼「ふぅ……やっと静かになった。皆、布団に戻った……よな?紅も……今日はやけに押しが強かったし」
蒼の頬が、ほのかに赤く染まっていた。
そこへ、ひらりと現れる一人の影。
「今宵の月は、よく澄んでおりますね」
フィリア姫だった。
蒼「姫、こんな夜更けに……危ないですよ?」
フィリア「危ないのは……貴女の方かもしれませんわ」
そう言って、姫は蒼のすぐ横に立ち、そっと腕を絡めてくる。
蒼「えっ、あ、あの、近い……」
フィリア「貴女は、“烈火”の名で呼ばれたことがあるのでしょう?」
蒼「――!」
姫の瞳はまっすぐに蒼を見つめていた。
フィリア「子どもの頃に、夢で見たのです。真紅の焔を纏った者が、私を救ってくれる未来の夢を。
その人の名は“烈火”――でも、私にはなぜか、あなたの姿に見えていたのです」
蒼「それって……まさか……転生前の俺(私)と……?」
蒼の胸に、何かがざわめいた。過去の断片――“焚火”と呼ばれていた記憶、“烈火”として名乗った記憶。
フィリア「でも、今の貴女は“蒼”。」
彼女は静かに蒼の手を取ると、自分の胸元に当てた。
フィリア「鼓動、聞こえますか? これは、未来の私の答え」
蒼「姫……俺……じゃない、私は――」
(紅の顔が、ふと脳裏をよぎる)
その時――
「姫、そこまでだ」
声が割り込んだ。
紅だった。
紅「姫、蒼は私の大切な……仲間なんです。だから……そんなふうに弄ぶのは、やめてください」
フィリアはふわりと微笑む。
「弄んでなどいません。私は、本気のつもりです。……でも、そうですね。貴女の想いも、私、きっと好きですわ」
紅「えっ……!?」
フィリア「私、女の子同士でも構いませんもの」
蒼・紅「なっ……!?」
ZERO(木陰から)「報告……姫の夜間行動、危険度:中。対象・蒼。要監視強化」
楓(木陰でこっそり)「姫ってば、あなどれませんねぇ……ふふっ」
──こうして、夜は明ける。
姫の本気の想いに、蒼の過去と現在の心が揺れ動く。
それを見守る紅、ZERO、楓――
想いが交錯する中、静かに“記録の棺”の封印が音を立て始めていた。