第12話:「忍びの嗜み!くノ一カフェ開店中!」
「――なんで、私たちがこんな格好してるのよ……!!」
蒼は顔を真っ赤にして叫んだ。
目の前には、くノ一メイド服姿の自分。
ミニスカートに、レースのついたエプロン。そして揺れる大きな胸。
「肩が……凝るってばもうッ!!」
「いや、蒼様。見事な“乳鎧”です」
紅が真顔で頷く。
「胸部装甲は厚いが、脚の露出が多すぎるぞ。これは“太もも責め”だな」
ZEROがぼそっとつぶやくと、
「ね、ねえ皆さん……私、こんなに胸強調するの、ちょっと……///」
と、メガネ巨乳の楓はモジモジしていた。
しかしその胸は、カウンターに乗るほどの存在感だった。
「くノ一カフェ《忍恋庵》へ、ようこそ~♪」
謎のハイテンションで師匠が客引きをしていた。
(いや、何この地獄……!)
蒼の心の叫びが、天井に届きそうだった。
◆
「いらっしゃいませ♡ご主人様……とか言えばいいの?」
蒼はぎこちなく笑う。
だが、異様に盛況だった。
「蒼ちゃん指名でドリンク10杯入りました!」
「は、はいぃぃ!?指名制!?」
「うわ、ちょ、抱きつかないで!!触るなあああ!!」
(くっ……このくノ一任務、精神が削れる!)
「蒼様、今夜は寝違えるであろう」
「いろんな意味で、凝る……ッ!」
◆
その裏で、ZEROが一人、冷静にフロアを歩きながら、客の情報を探っていた。
(……この中に、“影刃党”の間者がいる。任務は、接触者の割り出し)
だが――
「ZEROちゃんの猫耳、ぷにぷにしたい~♡」
「触るな」バッ
目にも止まらぬ速さで手を捻り上げられる男客。
「猫耳は、神経拡張フィルターだ。弄ぶな」
「いったい何語!?」
ZEROが放った冷ややかな視線の奥、金色のオッドアイが微かに煌めいた。
◆
閉店後――
「や、やっと終わった……!」
蒼はぐったりと椅子に倒れ込んだ。
「忍びって、こんな仕事までやるの!?」
「任務のためならば、踊れど笑えど、胸も揺らすべしです」
紅が静かに言うと、
「……お客様に、“忍びの匂い”がしました」
ZEROがつぶやいた。
「え?」
「明日、動きがあるかもしれません。……“例の任務”、開始の合図」
冗談のような日常の裏に、確かな影が迫りつつあった。
そして蒼の背に、何かが疼く――
“この身体に宿る、もう一つの記憶”が。