第67話「最果ての記録、“炎の書板”」
「これは……炎の書板……?」
ZEROが立ち止まり、静かに呟いた。
蒼たちの前に現れたのは、漆黒の空間の中にぽつりと浮かぶ、古びた石板のような“記録”。
だがそれは、絶え間ない熱を放ち、赤く脈打っていた。
楓が探知モードの眼鏡を覗き込む。
「エネルギー反応が異常……これは生きてる記録ですぅ!」
紅が手を引く。
「蒼、気をつけて。その書板……ただの記録じゃない」
蒼はそのとき、確かに感じた。
――炎の中で、誰かが自分の名を呼んでいる。
《アラト……いや、“蒼”よ。》
石板が光を放ち、空間が揺れる。
そこに現れたのは、禍々しい炎を背にした、異形の影――
だがその姿は、かつて見た誰よりも“自分”に近かった。
「……それ、俺じゃないのか……?」
ZEROが分析を始める。
「この記録体……あなたの“分岐魂”です。
過去のあなたが、“力だけを選んだ存在”――もう一人の、アラト」
その異形が口を開いた。
「……俺は、全てを守るために、感情を捨てた。力を得るために、仲間を“譲渡”した。
お前は、同じ過ちを繰り返すのか?」
紅が前に出る。
「この蒼は違う!愛も仲間も、絶対に捨てたりしない!」
蒼は頷く。
「……たとえ、どんな過去の自分だって、もう繰り返さない」
「だから――俺は、お前を、受け入れる!!」
《融合スキル:魂統合・真炎覚醒》
烈火の力が、蒼の身体に再び宿る。
アーマー化した鞭が燃え上がり、灼熱の紅鞭へと変貌する!
紅「よし、行くわよ蒼!譲渡リンク、フルオープン!」
《相互譲渡:紅蓮覚醒》
紅の双剣が、炎の翼のように展開。蒼とのリンクが限界を越え、二人の力が一つになる。
ZERO「融合率97%……このままなら、記録の最深層へ到達可能!」
楓「よ〜し!ハンマーも炎モードでぇぇすっ!!(※炎を纏った巨大ハンマー)」
三人が力を合わせ、記録の炎を打ち砕く!
異形の“もう一人の自分”が、砕け散るその直前、微笑んだように見えた――
「ようやく……本物になれたな、蒼……」
石板が崩れ、蒼の中にまた一つ、“かけら”が戻ってきた。
ZERO「これで、転生の記録のすべてが……」
蒼「……いや、まだだ」
紅「え?」
蒼の掌に、小さな黒い結晶が現れる。
「“最後の名前”が……まだ、思い出せない」
その言葉に、仲間たちの間に静けさが訪れる。
しかし、紅はそっと蒼の手を握った。
「じゃあ、思い出すまで、私たちで作っていこう」
「あなたの名前、あなたの記録――全部、これから一緒に」
蒼は微笑んだ。
「……ああ、そうだな。全部、これからだ」
遠くで鐘の音が響いた。
それは、次の記録――“神話時代の最終戦争”の扉を開く合図だった。