第66話「最初の転生、記録の目覚め」
「目を閉じて、蒼――」
姫・フィリアの言葉と共に、蒼の中に“記録”が流れ込む。
紅もZEROも楓も、その場に居た誰もが感じ取った。
それは、空間そのものが“記録の世界”に変質していく感覚。
世界が反転する。
蒼の瞳が、深い蒼から白銀に染まる。
――そこは、神々の時代。未だ“忍”という概念さえ生まれていない世界。
草原の風が吹く。
その中心にいたのは、ひとりの青年。
長い銀髪をなびかせ、異国の装束を纏ったその男の名は――「アラト」。
そして、彼に寄り添っていたのは、まだ若い巫女のような少女――
「初代フィリア」だった。
【記録:第一の転生】
アラト(蒼)は、別の世界から飛ばされた最初の“転生者”。
当時の人々にとっては“神の遣い”のような存在だった。
だが彼は、世界に馴染めず、孤独を抱えていた。
唯一、彼を理解したのが巫女・フィリア。
彼女は言った。
「あなたがどんな世界から来たとしても、私はあなたの隣にいる」
記録のなか、蒼は“彼女を選び、愛した”。
だが、世界はその愛を許さなかった。
アラトの能力――“譲渡スキル”は、当時まだ制御できず、触れた相手に“力と記憶”を流してしまう。
それを恐れた神々が、アラトを“記録の呪い”として封印しようとしたのだ。
フィリアは叫んだ。
「彼は私のすべて!奪わないで!」
だが――
アラトは、己の存在ごとこの記録に封じられた。
蒼の心が揺れる。
「……これが、最初の俺?」
声が響く。
「そして、その魂は巡り、“烈火”となり、焚火となり、そして……“蒼”となった」
――記録の棺の中から、光の衣をまとった人影が現れる。
それは、過去にアラトを封印した存在――記録の管理者、《ノア》だった。
「今度こそ選べ。“力”か、“愛”か」
蒼は、静かに答える。
「どっちも――手に入れてやるさ。何度でも転生してでもな」
その時、紅が手を取り、真っ直ぐ見つめる。
「私は、どんな記録よりも、今の蒼が好き。愛してる。
過去なんて、勝手に綺麗に書き換えられたって構わない」
「私は今のあなたと――この手で、新しい記録を書きたい」
《譲渡スキル:真・相互譲渡》発動
蒼と紅の間に、新たな力が循環する。
その光が記録の棺を照らし、ノアを飲み込んでいく。
「記録に逆らうか――それが、お前の選択か……」
ノアの影が消え、蒼の記憶が統合されていく。
アラト、烈火、焚火――
「全部が“蒼”なんだな、俺は」
仲間たちが駆け寄る。
楓「……どんな過去でも、私、全部受け止めるからぁぁぁっ(ぽろっ)」
ZERO「……次の記録、解析可能領域が拡張されました。今の蒼なら、照合一致率……最大値」
そしてフィリアが微笑む。
「ようやく……あなたはあなたを受け入れたのね」
「でも――私のキス、まだ残ってるわよ?」
紅「絶ッ対!させないからっ!!」
蒼「また始まった……っ!?」
仲間とともに、蒼は新たな“真実の記録”に向かって歩み始める。
だが、記録の最奥にはまだ、“封印された者”の存在が……