第64話「記録の断片との戦い」
黒霧の中から姿を現したのは、“過去に喰われた者たち”の影だった。
それはかつて蒼が――いや、烈火として存在した時代に出会った者たち。
救えなかった命。守れなかった約束。選び取れなかった未来。
「……これは……俺が、あの時……」
蒼の目が揺れる。
だが、その隣に紅が立つ。強く、まっすぐに。
「違う、これは**あなたの罪じゃない。あなたが背負ってきた“選択の記録”**よ」
ZEROが一歩前に出る。
「記録の断片は、心の迷いに引き寄せられる。
だからこそ、私たちが抗う意味がある」
断片の一体――顔を失くした青年の影が、蒼に手を伸ばす。
その姿に、蒼の脳裏に過る。
――《烈火》の時代、任務の中で見捨てるしかなかった仲間・“アシュ”。
「俺は……俺は、お前を見殺しにした……!」
怒りと悲しみと罪悪感が胸を刺す。
その時。
紅が、蒼の頬をパシンと叩いた。
「……蒼!違うわ。あなたが生きたから、私と出会えたの!」
「私も、ZEROも、楓も、あの時の“あなたの選択”があったから、ここにいるの!」
「その記録は、正しかったかじゃなく、これから何を繋ぐかで決まるのよ!」
蒼は――拳を握った。
その手に、炎のように光る鞭が現れる。
《記憶装備:烈火ノ記憶 ― 断罪形態》
「……そうだ。俺は、背負っていく。
でも、“今の俺”で、この記録に終止符を打つ!」
振り下ろされた鞭は、アーマーを纏い――鎖が蒼の身体を守ると同時に、衝撃を爆発させる。
ZEROは、敵の足元に影を這わせ、囁いた。
「記録よ、ここで終われ。次の継ぎ手は――もう決まってる」
影と光が交差し、不完全な断片は静かに霧へと還っていった。
蒼は深く息を吐いた。
その肩に、紅の手がそっと触れる。
「大丈夫。あなたの過去も、全部、私の中にあるから」
蒼の頬が赤く染まる。
「……ありがと。ほんとに、お前がいてくれて、よかった」
少しだけ、紅の顔も赤くなる。
「……あたり前でしょ。だって――」
その時、背後から聞こえた、くすくす笑い。
楓がニヤニヤしながら手を振る。
「ふふふ~。なんか甘い雰囲気、まんま記録しちゃったかも~♪」
「おい、記録って!?」
「えー!だって~、映像と音声ぜんぶ取れるんだもんっ♡ 」
「なぜそんなスキル持ってるんだ楓ぅぅぅっ!!!」
蒼と紅が、顔を真っ赤にしてツッコむ。
ZEROは横で静かに微笑む。
「……録画済み。いつでも再生可能」
「ゼロぉぉぉぉぉぉっ!?!?!?!?」
──戦いの後。
ほんの束の間の、平穏と……ドタバタ。
だが、次なる“記録”はもう動き出していた。
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