第63話「記録を継ぐ者たち」
静寂の森に、ふたたび風が吹いた。
それはまるで、棺の記録が目覚めたことを告げる風。
ZEROの右目――封じられていた黄金の神目が、ゆっくりと輝きを放ち始めた。
「……私の中に、情報が流れてくる」
彼女の声は、震えていた。
普段の無機質な口調ではない、感情の揺らぎがあった。
「“ゼロ”とは、かつて記録を編み上げる者。
魂の断片を拾い集め、“誰か”へと繋ぐ者。
……私は、その器だった……?」
ZEROの瞳が、蒼の蒼瞳と重なった瞬間。
《魂の共鳴――発動条件、達成》
蒼と紅、そしてZEROの記録が共振を始める。
それは、偶然ではない。
幾つもの時代を越えて交錯してきた記憶たちが、今この瞬間に重なり合ったのだ。
《スキル進化:魂の共鳴》
──対象の想いと想いが共鳴することで、精神・能力・感情の一部を共有可能。
※初期効果:
感情共有(近くにいる者の“強い感情”を受け取る)
微弱な傷・疲労を“肩代わり”できる
同時思考通信
蒼と紅が思わず見つめ合う。
「今……あなたの声が、直接届いた気がした」
「うん、私も。紅の想いが、まっすぐに」
ZEROは、フードを外した。
金のオッドアイと、黒の瞳がそろうとき、まるで“記録を編む者”の覚醒のようだった。
「……あなたたちと、繋がっている。心が、そう感じる」
その時、周囲の地面が震えた。
地脈が、“棺”に呼応して暴走を始めたのだ。
「この棺は、記録を開くだけじゃない……“引き寄せる”装置でもある!」
紅が叫ぶ。
「来るわよ、また……あの記録を喰らう者が!」
霧の中から、今度は幾つもの影が現れる。
それぞれの姿は異なり、だがどれも“不完全な記録の断片”。
「こいつらは――私たちの、失われた記憶の欠片……!?」
蒼が、紅の手を強く握る。
「記録に喰われてたまるか。
“私たちは、今ここにいる”って証を、見せるんだ!」
紅が微笑み、双剣を構える。
「ええ、あなたが私の隣にいる限り。私は何度でも、斬ってみせる!」
ZEROが、静かに鞘を抜く。
「記録を継ぐ者として、私はこの剣を振るう。
……この魂が、まだ揺らぐ前に」
そして、戦いが再び始まる。
だが今回は――三人の魂が、ひとつだった。