第62話「開かれた記録の棺」
静まり返る森の中、まだ黒い霧の余韻が漂っていた。
敵が遺していった言葉が、蒼の胸を刺して離れない。
> 「“記録の棺”を開けるな……烈火の記憶は、まだ完全ではない」
蒼は、一歩、霧の奥へと進んだ。
そこには、異質な存在があった。
木々の根元に半ば埋もれるように――
古びた石棺のようなものが、静かに横たわっている。
「……これが、《記録の棺》?」
ZEROが言った。
「間違いない。私の記憶に、確かに刻まれている。
この棺には、“烈火”の最初の転生の記録が収められていると……」
蒼の目が、棺に吸い寄せられる。
指先がそっと触れた瞬間、鞭型のアーマーが微かに脈動した。
(私は……何度も、転生している……?)
(“烈火”とは……本当に、私だったのか?)
そのとき、棺がひとりでに開き始めた。
眩い光があふれ、蒼の意識が一気に引き込まれる。
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過去視:最初の転生 ― “第一の蒼”
そこは、かつて存在した魔法文明の崩壊直前の時代。
美しく気高き“剣聖姫”と呼ばれた一人の少女――
名は“セリュア・レイ=フェリア”。
深い蒼の瞳を持ち、王を守る最後の守護者であり、“焔の力”を内に宿していた。
彼女は、王を守り、国を護るため、魔神と契約して力を得た。
その代償――魂を未来に転生させられる呪い。
> 「転生を繰り返し、いつか“記録を超える者”となる」
それが、彼女の宿命だった。
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蒼が目を覚ますと、膝に紅が倒れこんでいた。
「っ、蒼!目が覚めたのねっ!」
蒼は小さく頷き、紅の髪を撫でながら言う。
「見た……私は、セリュアという“私”だった」
「私は――生まれ変わりを繰り返し、記録を背負う運命にあった」
ZEROが静かに言う。
「では、“烈火”も“焚火”も……その継承の一つなのかもしれない」
「うん、そして今の私は“蒼”。
でも――それだけじゃない。私には……紅たちがいる」
紅が、優しく笑って言った。
「だったら、私たちも……“記録の一部”にしてよ。あなたの未来の、ね」
蒼の心に、ふたたび炎が灯る。
> 「私の名前は、蒼。
“記録を超える者”として――私は、未来を選ぶ」
その時、棺の中からもう一つの記録が転写された。
ZEROの眼帯が再び輝き、彼女の体に情報が流れ込む。
「……“次に記録を開く者”は、私?」
棺に記された名――《影の記録者:ゼロ》。
物語は、次なる章へ。
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続けますか?
それとも、ZEROの記録に焦点を当てたスピンオフで繋ぎますか?