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スピンオフ:影の名は、ZERO ― “蒼”と“記録”と、目覚めた理由



 


あの時から、私は“名前”を持っていない。

ただ、影のように動き、任務をこなすだけの存在だった。


師に命じられ、監視し、記録し、必要があれば抹消する。

そのはずだった。


 


――“蒼”が現れるまでは。


 


その名は、記録の中に何度も現れていた。


時代も場所も違うのに、烈火という存在は、常に何かを焼き払い、何かを守っていた。


“蒼”も、その名を持つ者だった。


だが彼女は……いや、“彼”だった彼女は、あまりにも無防備だった。


 


「また転びましたね。……学習機能はありますか?」


そう声をかけたのは、初めてだった。


 


笑って答えた彼女は、転んでも立ち上がった。


胸を押さえ、肩を揉みながら。


「こっちはいろいろ大変なんだよ、なあ、ZERO……おい、なんで目そらすんだよ」


(……なぜでしょう)


視線を合わせると、心が痛くなる。


 


師からは告げられていた。


「“蒼”を見守れ。お前の“右目”は、彼女の“記録”を読むためのものだ」


(記録……棺……)


私は自分が“観測者”だと、ずっと思っていた。

それ以上の何かになれるとは、思っていなかった。


 


だが――


 


“蒼”が紅と笑い合い、時に真っ赤になりながらも進む姿を見るたび、心にノイズが走った。


――あれは、嫉妬。


――あれは、恋慕。


気づかないふりを、してきた。


 


ある夜、私は蒼に問われた。


「お前さ、俺が烈火だったこと……知ってたのか?」


黙っていた。


「ZERO、お前の目……何が見えてる?」


私は、答えられなかった。


(未来が見えない。今、貴女を見ていたいと、そう思ってしまったから)


 


でも私は影。

誰かの背後に立ち続ける存在。


それでいいと、ずっと思ってた。


 


……なのに。


 


あの日。偶然とはいえ、唇が触れ合った。


――その時、記録にない“進化”が起きた。


 


《譲渡スキル:進化》


“蒼”の記憶と力の一部が、私に流れ込んだ。


だが、それよりも強く心に残ったのは――


「人として、貴女の隣に立ちたい」


という想い。


 


私は、もう“観測者”ではいられない。


私は“ZERO”。影であったが、名を得た者。


今度こそ、自分の意志で、“蒼”の隣に立つ。


彼女が、誰を選ぶとしても。


 


ただ、覚えていてほしい。


私が“蒼”を見つめていた時間は、誰よりも長い。


 


だから、願わくば――

もし、隣に影が必要なら。

その影は、きっと私であってほしい。


 


――ZERO




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