第60話「姫の涙と、記録の真実」
姫の護衛任務を終えた蒼たちは、一夜の休息を得ていた。
だがその夜、蒼は――ふと、夢の中に引き込まれた。
闇の中、白い着物を纏った少女が立っていた。
「……あなたが、“蒼”なの?」
声は震えていた。
「私……“焚火”だった記憶があるの。だけど……今の私の名は、シェリア・ファーナス」
夢の中で語られる姫の過去。
彼女はかつて、現代で“焚火”という少女だった。
事故で命を落とし、その魂は異世界に転生。
そして王家の血を引く姫として目覚めた――だが、記憶は曖昧なまま。
「でも……蒼に触れた時、はっきりと思い出したの。あなたと“私”は、確かに繋がっていたって」
姫の瞳から、涙がこぼれる。
「――私、ずっと、ひとりだった。誰かに抱きしめてほしかった」
蒼は、そっと姫に触れる。
夢の中でも、譲渡スキルは発動していた。
《共鳴:記憶融合》
刹那、蒼の中にも流れ込んできた。
焚火だった頃の記憶――
そして、シェリアとして生きた孤独な月日。
「君は、君のままでいい。焚火でも、シェリアでも」
「でも、私は――蒼が好きなの。魂が、あなたを追いかけてしまうの」
そして、静かに唇を重ねられる。
「……ありがとう、これで、やっと前を向ける」
現実に戻ると、蒼の目に涙がにじんでいた。
「姫は……ずっと、泣いてたんだな……」
だが、紅は黙って寄ってきて、蒼の袖を引っ張る。
「……もう、誰にも渡さないから」
不機嫌そうな顔。
「姫様が相手でも、ダメだからね」
楓は微笑み、ZEROは口元だけで微かに笑った。
影と共鳴した姫の想い、そして愛の告白――
そのすべてが、蒼の心に重く、あたたかく残った。
だがその背後で、再び“記録を喰らう者”たちの影が蠢いていた――
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