番外編:零(ZERO)、秘めたる情熱 お届けいたします。
番外編⑩:零(ZERO)、秘めたる情熱
「……蒼、少し時間、いいか」
夕暮れ時、道場の裏庭。
無口な少女──影・零が、不意に蒼へと声をかけた。
「うん? どうしたの、ZERO?」
「……今日は、観測したい」
「か、観測って……また、私の訓練データ?」
「……違う」
小さく、けれども確かに首を振るZERO。
彼女の眼帯の下に潜む“金の瞳”が、微かに光を帯びた。
「……蒼が、他の者と接触する時の感情反応を、記録している」
「え? なにそれ、ちょっと怖いんだけど……」
「蒼と紅。蒼と楓。蒼と……私。すべて、比較対象」
「え、え、なに? なにその感情観測装置的な発言?」
「……結果。私の“心拍”は、蒼にだけ反応していた」
蒼は、一瞬息を呑んだ。
まっすぐに向けられる、ZEROの金の瞳。
「それって、もしかして……」
「分からない。“好き”とは何か。愛とは何か。私は定義できない」
「それでも……私は、蒼と、もっと近くにいたい。触れていたい」
そう言って、ZEROはゆっくりと蒼の手を取った。
ひんやりとした掌が、どこか切なく、どこか優しかった。
「おいおい、ZERO!? これ、まさか……」
《譲渡スキル:共鳴進化》
《対象:零。潜在感情スキャン領域拡大》
《新スキル:融合感覚【Synesthesia・Link】発現》
「え!? ま、またスキル反応!? って、融合感覚って何それ怖い!!」
「蒼と触れているとき……私は、蒼の“感情”が、色で見える」
「は、はわわわわわわ!?!?!?」
「今の蒼の色は……」
ZEROが耳元でささやいた。
「……桃色。甘くて、とても……熱い」
「~~~~っ!!!」
蒼の悲鳴が夜の道場に響いた。
そんな騒ぎをよそに、木陰でこっそり見ていた紅と楓。
「……蒼ちゃん、また“愛されスキル”進化してるねぇ〜」
「ふふ、嫉妬……すべき、か?」
紅の目がほんのり赤く光る。
「いーのいーの♡蒼ちゃんは、私たちのだから〜♡」
その夜、蒼は誰にも会わないように布団にくるまり、
「やばいやばいやばい……私ってば、どうなってんの……」と悶えていたという。