番外編:ZEROの秘密と“白きゴスロリ”の夜
その日、蒼と紅、楓はいつもの訓練場を離れ、山奥の湯宿へ休暇に来ていた。
ふとしたタイミングで、彼女《ZERO》も合流することに。
「なぜ湯に……私は入らぬ、と言ったはず」
黒フード姿のZEROが、湯船の入り口で立ち止まっている。
「だってゼロちゃん、ずっとそのフード脱がないんだもん!今日は特別サービス日だよ!」
紅が悪戯っぽく笑う。
「……必要、あるか」
そう言いながらも、ZEROはしばし逡巡し、フードに手をかけた。
──その瞬間、3人の目が釘付けになる。
白い肌に包まれた、美しいゴスロリ風の装束。
だが、何より驚いたのは……
「……えっ、えっ?ゼロ、胸……でかっっっ!?!?!?」
蒼の声が温泉中に響き渡った。
「ど、どうして隠してたのよ!? ずるい!」
紅も湯から立ち上がり、湯気と一緒に叫ぶ。
「ふ、ふふふ……やっぱり……ZEROちゃんも、わがままボディ仲間だったのね……!」
楓は打ち出の小槌を構えかけていた。なぜ。
「この姿は……戦闘用ではない。私の“もう一つの姿”だ」
ZEROがぽつりと呟く。
蒼が目を細めて問う。
「……もう一つ、ってことは、もしかして、あれって“譲渡スキル”の……?」
ZEROは、ゆっくりと浴衣の内側から、金色の片眼鏡を取り出した。
「私は……既に一度、“人間としての心”を捨てた。だが、蒼、お前と触れて──私の中に、何か……人の感情が芽生えた気がする」
「……ゼロちゃん、それって──」
その瞬間、ZEROは蒼へと近寄り、唇に……!
「っっっ!!?」
軽く触れるだけの、淡いキスだったが。
《──譲渡スキル《Embrace Boost》発動──》
蒼の身体に、新たなエネルギーが奔った。
「……な、なに!? 今、ZEROの想いが……流れ込んで……きた……?」
ZEROは何も言わず、再びフードをかぶる。
「これが、私の答えだ。──蒼、お前がくれた感情。少しだけ……返しただけ」
そして、湯けむりの向こうに消えていった。
ぽかんとする3人。
紅がしれっと呟く。
「でさ、蒼……今、ちょっとドキッとしてたでしょ?」
「──してないっっっ!!!!」
その夜、ZEROのゴスロリ姿が記録されることはなく、記憶の中にだけ残った――。