番外編:影と、光のあいだで ―蒼とZERO、ふとした事故が運命を変える―
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番外編:影と、光のあいだで
―蒼とZERO、ふとした事故が運命を変える―
任務帰りの道すがら。
石畳に足を取られた蒼が、不意につまずいた。
「っ、あぶっ……!」
反射的に手を伸ばした先にいたのは、ZEROだった。
いつものように無言で、猫耳フードの奥から見据える鋭い瞳。
だが、次の瞬間――
「――っ⁉」
ふたりの唇が、触れてしまった。
時間が止まった。
風が吹き抜け、木々がざわめく。
どちらの唇も、まるで熱を持ったように微かに震えていた。
蒼「い、いまのは……し、事故……っ!」
ZERO「………………。」(棒読み)
だがその瞬間、ZEROの身体に異変が起きた。
影のように無機質だった彼女の瞳が、わずかに揺れた。
右目の眼帯の奥――黄金のオッドアイが、ひときわ強く輝く。
《――スキル共鳴発生。譲渡スキル発動:人格認識進化――》
《影の存在、"ZERO" に人間的感情データの上書きを開始》
蒼「な、なにか光ってる……!?」
ZERO「……………心臓、が、ドクンとした……。これが、“鼓動”?」
影の存在であり、心を閉ざしていたZEROの中に、「人としての意識」が芽吹いた。
初めての戸惑い。初めての恥じらい。
その感情は、彼女の中で温かく、そして怖いほどリアルだった。
ZERO(……蒼の唇。柔らかかった。温かくて……甘い匂いがした……)
今まで感情を抑制していた彼女が、初めて「照れる」という仕草を見せる。
蒼「あ、あーっ……あれだよ!事故!ほんとに事故だったんだってば!///」
ZERO「…………責任、とって?」
蒼「な、なんでそうなるの!? あたしは悪くないっ!」
ZEROのほほに、かすかな赤みがさす。
その時、彼女のステータスに変化が――
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【スキル進化】
名前:ZERO(影ノ者)→ 「ヒトナリ・ZERO」
特性:「擬似人格」→「完全人格」
譲渡スキル:相手との接触によって“人らしさ”を獲得・拡張
新スキル:【心の声を持つ】【羞恥心発現】【感情増幅による戦闘強化】
今まで「影」として生きていたZEROが、ようやく“誰か”になろうとしていた。
彼女は、口元に手をあててぽつりと言う。
ZERO「……蒼。もう一度、触れていい?」
蒼「ちょ、ちょっと待って!それは、その……こっちの心の準備がっ!」
――こうして、またひとつ、運命が動き出す。