番外編「紅の嫉妬 ―ねえ、蒼は誰が好きなの?」
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番外編「紅の嫉妬 ―ねえ、蒼は誰が好きなの?」
夜も更け、訓練場の片隅。
月明かりの下で、紅はひとり、短剣の手入れをしていた。
……カチリ、カチリ。
無言で繰り返されるその動きは、どこか苛立ちを孕んでいる。
そこへ、ひょっこりと蒼が現れた。
「紅?まだ起きてたんだ。肩、こってない?」
「……ふん、誰かさんがZEROと良い雰囲気だったから、なんとなく眠れなくなっただけ」
「えっ、何のこと?」
蒼が困ったように笑って、近づく。
紅は顔を背けたが、その耳はうっすらと赤く染まっていた。
「……蒼はさ、私のことどう思ってるの?」
唐突な問いに、蒼はぽかんとする。
「え、えっと……可愛くて、かっこよくて、ドキドキする時もあるし……好きだよ?」
「そういうの、冗談っぽく言わないで」
紅が立ち上がり、蒼の胸元を指で突く。
その手は微かに震えていた。
「ZEROと仲がいいのはいいけど……私、ずっと、蒼のこと本気で見てたんだから」
「……紅……」
蒼が何かを言おうとしたとき、紅が突然蒼にキスをする。
ふいに奪われた唇。蒼は一瞬驚き、そして目を閉じた。
「……私は、蒼が誰かに取られるの……イヤなの」
「紅……ごめん、気づかなくて。実は、俺……いや、私は……」
蒼の胸の奥が熱くなる。
まるで記憶のなかで何度も同じ想いを繰り返してきたような、懐かしく、切ない痛み。
「私も……紅が好き。紅は私のすべてだって、心が言ってる」
――不意に、光が揺れる。
2人のキスと想いが共鳴し、《譲渡スキル》がさらに覚醒する兆しを見せた。
紅の瞳が潤み、蒼の胸に顔を埋める。
「ねぇ、蒼……来世も、転生しても……私を見つけてね」
「うん。何度生まれ変わっても、紅を見つけるよ。絶対に」
そして、2人は静かに抱き合いながら、月明かりの下でしばし寄り添っていた――