番外編「影に咲く花、零の本音」
番外編 Episode「影に咲く花、零(ZERO)の本音」
ふだんは寡黙なあの“影”にも、知られざる想いと、誰にも見せぬ感情があった――。
---
番外編「影に咲く花、零の本音」
月も隠れた、静寂の夜。
他の仲間たちが眠りについたころ、蒼はふと目を覚ました。
「……誰か、いる?」
微かに感じる気配に導かれるように、蒼は裏山の岩場へ向かう。
そこには、影――零(ZERO)の姿があった。
「……眠れなかったのか、蒼」
「うん。……ZEROこそ」
「……私は、眠る必要があまりない」
「……やっぱり機械だったりする?」
蒼の冗談に、ZEROは少しだけ微笑んだ。
それは、滅多に見られない――儚く、そしてあたたかな笑みだった。
「……蒼。あなたは、いい」
「え?」
「愛されて、誰かを愛せて、感情に突き動かされて、力に変えて……。私は、ずっと影。誰かを照らすことしか、できない」
「……違う。ZEROだって、誰かを想ってる。それだけで、ちゃんと――光、持ってる」
沈黙が流れる。
蒼がふと、ZEROの眼帯に目を向けた。
「……見てもいい?」
「……ダメ。けど、もし……あなたが望むなら」
ゆっくりと外される眼帯。
あらわになる、金色の瞳――
そこには、悲しみと、焦がれるような想いが宿っていた。
「ねえZERO、もしかして……」
「言わないで。……私は、影。
けど、もし“心”があるのなら……たぶん――」
その瞬間、
零の冷たい手が、そっと蒼の頬に触れた。
「……私も、蒼が好き。紅ほど、激しくもなく、楓ほど素直でもなく、
ただ……この手で守りたいと思った」
風が吹き抜ける。
蒼は黙って、ZEROの手を握り返した。
「ありがとう。……その気持ち、ちゃんと、伝わってる」
そして――そっと重なる、額と額。
二人の間に言葉はもういらなかった。
ただ、静かな夜が、そっと二人を包んでいた。