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7話 拡散されるダンジョン飯

オーク肉の赤ワイン煮込みを堪能し、満腹になった俺たちは、オークの森の探索を再開した。

とはいえ、主な目的であるオーク肉は達成したので、あとは帰り道すがら、何かめぼしい食材でも見つかればラッキーくらいの軽い気持ちだ。


もちろん、俺は常にレイナさんの数歩後ろをキープし、周囲への警戒は怠らない。


「それにしても、さっきのオーク肉、本当に絶品でした……。思い出したら、またお腹が空いてきちゃいました」


隣を歩くレイナさんが、幸せそうに顔をしている。さっきあれだけ食べたのに、もう次のことを考えているのか……。

その胃袋は、ダンジョン並みに底なしかもしれない。


「レイナさん、さっきSNSに写真アップしてましたけど、大丈夫なんですか? あんまり個人情報とか出すと……」


俺が心配して言うと、レイナさんはスマホを操作しながら「大丈夫ですよー」と軽い返事。


「このアカウント、本名とか出してないですし、顔も出してませんから! フォロワーさんもみんな私の『秘密の楽しみ』を応援してくれてる、いい人たちばっかりです!」


(秘密の楽しみ……って、ダンジョン飯のことか? いい人たち……って、どれくらいいるんだ?)


ちらりと彼女のスマホ画面を盗み見る。

アカウント名の横に表示されているフォロワー数を確認すると、


(……え、桁多くない? ゼロが……い、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……え、100万超えてる!?)


「ひゃっ!?」


思わず変な声が出た。


「ど、どうしたんですか? 佐藤さん」


「い、いえ、なんでもないです……。すごいですね、フォロワー……」


「えへへ、そうなんです。みんな、私の『美味しいもの探しの旅』を楽しみにしてくれてるみたいで」


(美味しいもの探しの旅……。フォロワー100万超えのインフルエンサーだったのか、この子……!)


道理で写真の撮り方が妙に手慣れていたわけだ。俺の作ったゴブリンの肉炒めやオーク肉の赤ワイン煮込みが、今100万人以上の目に晒されている……?

想像しただけで、胃がキリキリしてきた。


「あ、見てください佐藤さん! さっきのオーク肉の写真、すごい勢いで『いいね』とコメントがついてますよ! 『飯テロすぎる!』『どこのお店!?』『レシピ教えて!』って!」


「ひぃぃ……! やめてください、見せないでください……!」


俺は顔面蒼白になりながら、スマホから目を逸らす。有名インフルエンサーに俺の貧乏ダンジョン飯が捕捉されてしまった……。


なんということだ。


「ふふ、佐藤さん面白いですね。そんなに恥ずかしがらなくても。みんな、佐藤さんの料理を絶賛してますよ?」


(そういう問題じゃないんだよなぁ……)


俺の心の叫びは、レイナさんには届かない。


彼女は上機嫌でスマホを操作し続けている。


しばらく進むと、開けた場所に出た。

そこには、ゴブリンよりも一回り大きく、装備も少し立派なモンスター……ホブゴブリンが数匹、焚き火を囲んでいた。


「あ、ホブゴブリンですね。彼らのお肉も、ゴブリンよりは美味しいって聞きますよ」


レイナさんが、短剣を構えながら呟く。

その目は完全に食材を見る目である。


「え、いや、でも……」


俺が躊躇する間もなく、レイナさんは再び風のように駆け出した。そして、またしても瞬く間にホブゴブリンたちは素材へと変わっていく。戦闘の説明は省略だ。


俺には速すぎて見えないのだから。


「はい、ホブゴブリン肉、ゲットです! これで、また美味しいご飯が作れますね!」


レイナさんは満足げに微笑む。


俺は、その手際の良さに感心するやら、呆れるやら……。


まあ、食材が増えるのはありがたいことだ。

ホブゴブリン肉は、下処理をしっかりすれば、鶏肉に近い感じで使える。

唐揚げとかにすると美味いんだよな……。


(……って、いかんいかん。完全に思考が食材に引っ張られてる)


こうして俺たちはホブゴブリン肉という新たな食材を手に入れ、無事にオークの森から生還した。帰り道、レイナさんは興奮した様子で、次なるターゲットについて語り始めた。


「佐藤さん! 次は、もっと凄いダンジョンに行ってみませんか? Cランクダンジョンの【グリフォンの巣】とか!」


「ぐ、ぐりふぉん!?」


空飛ぶ伝説の魔獣じゃないか!


無理無理無理! 絶対無理!


「グリフォンのお肉って、最高級食材らしいですよ! 天空の鶏肉って言われてるんです! きっと佐藤さんが料理したら、とんでもなく美味しいものができますよ!」


「いやいやいや! 空飛んでる相手とか、どうやって狩るんですか! しかもCランクって……!」


「大丈夫ですって! 私、飛行系のモンスターも得意なんです! それに、グリフォンの卵も手に入ったら、究極の親子丼が……!」


(この子、食欲のためならどこまでも行く気だ……!)


俺は全力で首を横に振った。

さすがにグリフォンはハードルが高すぎる。命がいくつあっても足りない。


「そ、そこは、もうちょっと段階を踏みましょう! ね? まずは、もう少し安全なダンジョンで、色々な食材を試してみませんか? 例えば、巨大キノコの森とか……」


「キノコ……ですか? 美味しいんですか?」


「ええ、まあ、アヒージョとか、バター醤油炒めとか……」


「ふーん……。まあ、佐藤さんがそう言うなら……。でも、いつか絶対、グリフォン、行きましょうね!」


レイナさんは少し不満そうだったが、なんとか納得してくれたようだ。


俺は、自分の寿命が少し延びたことに、安心するのだった。いつか命を刈られるかも。

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