表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/51

5話 これが彼女の実力

土曜日の朝10時。


俺はオークの森の入り口ゲート前に立っていた。周囲には、いかにも歴戦の猛者といった感じの、ゴツい装備に身を固めた探索者たちがちらほらいる。

その中に混じる、普段着に安物のショートソードという出で立ちの俺は、明らかに場違いだ。めちゃくちゃ居心地が悪い。


(本当に、レイナさん来るのかな……ドタキャンされたりして……)


不安になっていると、「佐藤さーん!」と明るい声が聞こえた。振り返ると、昨日と同じく、大きなパーカーにキャップを深くかぶったレイナさんが、手を振りながら駆け寄ってきた。


「おはようございます! お待たせしました!」


「おはようございます。いえ、俺も今来たとこです」


「よかった! じゃあ、早速行きましょう! オーク肉、オーク肉♪」


レイナさんは、まるでピクニックにでも行くかのようにウキウキしている。

その手には、前回と同じ、洗練されたデザインの短剣が握られている。それ以外は小さなリュックを背負っているだけで、防具らしいものは何も身に着けていない。


(本当に大丈夫か、この子……いや、俺が心配すべきは自分自身か)


探索者証をゲートにかざし、いよいよオークの森へと足を踏み入れる。


ゴブリンの巣とは違い、空気は澄んでいて、木々の緑が目に眩しい。一見、普通の森と変わらないが、漂ってくる微かな獣臭と時折聞こえる遠吠えのような音。

ここがダンジョンであることを実感する。


「わぁ、空気が美味しいですね! やっぱり、都会よりダンジョンの方が落ち着きます!」


「は、はぁ……」


(俺は全然落ち着かないんだけど!)


レイナさんは深呼吸して、気持ちよさそうにしている。


俺はというと、周囲をキョロキョロと警戒しっぱなしだ。こう見えてビビリだから仕方ない。


「佐藤さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。オークなんて、怖くないですから」


「いや、怖いですって! Fランクの俺にとっては、遭遇=死、ですよ!」


「ふふ、大げさだなぁ。あ、そうだ。これ、どうぞ」


レイナさんはリュックから小さな袋を取り出し、俺に手渡した。中には、色とりどりの綺麗な飴が入っていた。


「これ、有名なパティシエさんに特注で作ってもらった『リラックス効果のある飴』なんです。舐めてると、落ち着きますよ」


「はぁ……ありがとうございます……」


(何かすごいもん出てきたんだけど!)


とりあえず一つ口に放り込んだ。

ベリー系の爽やかな甘さが口の中に広がり、確かに少しだけ、緊張が和らぐような気がした。



しばらく森の中を進んだ。


レイナさんは、時々立ち止まっては、地面に残された足跡を観察したり、木の幹についた傷跡を指でなぞったりしている。


「この足跡、新しいですね。たぶん、30分以内にここを通ったオークのものです。こっちの木の傷は……爪痕? いや、牙かな。ふむふむ」


まるで、熟練のハンターのようだ。


俺にはただの土や木にしか見えないのに、彼女には様々な情報が読み取れるらしい。


これが高ランク探索者の力なのか……?


感心していると、突然レイナさんが「!」という顔をして、俺の腕を掴んだ。


「佐藤さん、伏せて!」


「へ?」


言われるがままに地面に伏せると、ほぼ同時に、頭上を何かが猛スピードで通り過ぎていった。ブォン!という風切り音。

見上げると、巨大な岩が、俺たちがさっきまで立っていた場所に突き刺さっていた。


「……え? な、なに今の!?」


「オークの投石です。危なかったですねー」


レイナさんは、けろりとした顔で立ち上がる。


俺は腰が抜けて、しばらく立ち上がれなかった。


(死ぬかと思った……! ガチで死ぬかと思った!)


「あ、いましたよ、オーク」


レイナさんが指差す方向を見ると、ここから100メートルほど先の茂みから、緑色の肌をした巨躯のモンスター……オークが、こちらを睨みつけながら姿を現した。

棍棒を手に持ち、よだれを垂らしている。しかも、それが一匹じゃない。三匹もいるのだ。


「ひぃぃぃっ!」


俺は情けない悲鳴を上げた。

もうダメだ。終わった。人生最後の晩餐は、レイナさんにもらった飴だった……。


しかし、レイナさんは落ち着いていた。


「大丈夫ですよ、佐藤さん。ちょっと待っててくださいね」


そう言うと、彼女は短剣を構え、風のように駆け出した。


「え? ちょ、レイナさん!?」


俺の制止の声も届かない。


レイナさんは、あっという間にオークとの距離を詰める。オークたちが棍棒を振り上げるが、彼女の動きはそれを遥かに凌駕していた。


ひらり、ひらりとオークの攻撃を紙一重でかわし、懐に潜り込む。そして閃光が一閃。

次の瞬間には、一体目のオークが、膝から崩れ落ち、バラバラとなって消滅していた。


「「グルォォォ!?」」


残りの二匹が驚きと怒りの声を上げるが、もう遅い。レイナさんは止まらない。流れるような動きで二匹目のオークの首筋を切り裂き、返す刀で三匹目の心臓を一突き。

わずか数十秒。三匹のオークは、なすすべもなく地に伏し、素材へと変わったのだ。


「…………」


俺は、開いた口が塞がらなかった。


(なんだ、今の……? )


まるでアクション映画のワンシーンを見ているかのようだ。Fランクの俺には、何が起こったのかすら、よく理解できなかった。


「ふぅ、終わりましたよ、佐藤さん。ほら、新鮮なオーク肉、ゲットです!」


レイナさんは、にっこり笑って、オークの素材――主に肉塊だが指差した。

その笑顔は、なんだか楽しそうだ。


(……この子、本当に何者なんだ……?)


俺は、レイナさんの強さに改めて戦慄すると同時に、目の前にある、見るからに上質そうなオーク肉にごくりと喉を鳴らすのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ