48話 頂上への道
「お任せください! 最高の料理、お作りしますよ!」
俺は、アルヴの長老の申し出を快く引き受けた。仲間たちも、興味津々で見守っている。
アルヴの集落にある広場を借り、早速調理に取り掛かる。食材は、アルヴたちが分けてくれた、ユグドラシル内部で採れる特殊な木の実や、花の蜜、そして香りの良い樹液などだ。
これらの未知の食材を、マーメイド・パンを使って調理していく。
まずは「森の恵みパンケーキ」だ。
ユグドラシルで採れる栄養価の高い木の実を粉末にし、アルヴ特製の甘い樹液と、持参した卵を混ぜて生地を作る。そして、マーメイド・パンで焼き上げるといったシンプルなものだ。
自動温度調整機能のおかげで、火加減は完璧。フライパンの上で、生地はふっくらと、均一な美しい焼き色に仕上がっていく。
焦げ付きの心配は一切ない。焼きあがったパンケーキに、アルヴたちがくれた色とりどりの花の蜜をたっぷりとかける。
次に「木の実のキャラメリゼ」。
数種類の木の実をマーメイド・パンに入れ、少量の砂糖と共に加熱する。
フライパンは一瞬で最適な温度に達し、砂糖はみるみるうちに溶けて香ばしいキャラメル色に。木の実とキャラメルが絶妙に絡み合い、甘く香ばしい香りが広がる。これも、焦げ付かせずに完璧なキャラメリゼを作るのは至難の業だが、マーメイド・パンならお手の物だ。
「さあ、どうぞ! アルヴの皆さん!」
完成したパンケーキとキャラメリゼを差し出すと、アルヴたちは目を輝かせ、小さな手で料理を口に運んだ。
「「「!!!!!」」」
アルヴたちの動きが止まる。
そして、次の瞬間。
「「「おいひーーーーーーっ!!!」」」
広場中にアルヴたちの歓喜の声が響き渡った。
「なんじゃこのパンケーキは! ふわっふわで、口の中で溶けるようじゃ!」
「この蜜の甘さと生地の香ばしさが、たまらん!」
「木の実のキャラメリゼも最高じゃ! カリカリで、甘くて、香ばしくて……!」
「こんな美味しいもの、生まれて初めて食べたのじゃ!」
アルヴたちは、それはもう幸せそうな顔で、夢中で料理を平らげていく。その姿を見て、俺も、仲間たちも自然と笑顔になった。
「……素晴らしい。未知の食材を、ここまで見事に活かすとは。そして、あのフライパン……恐るべき性能だ」
一条シェフも感嘆の声を漏らしている。
「へへん、あたしが作ったんだからな!」
炎華が得意げに胸を張る。
アルヴたちは、すっかり俺の料理の虜になり、「森の料理番」として、大歓迎を受けることになった。そして、約束通り、長老が頂上への近道とガーディアンに関する情報を教えてくれた。
「頂上へは、この先の『風の回廊』を通るのが一番早い。ただし、そこには強力な風の精霊がおる。そして、聖域を守るガーディアンは、巨大な鳥の王『ルフ』じゃ。心してかかるのじゃぞ」
アルヴたちに見送られ、俺たちは再び頂上を目指して歩き始めた。彼らの助けのおかげで、道中は驚くほどスムーズに進んだ。
風の回廊では、強力なシルフたちが出現したが、連携してこれを突破。
そして、ついに俺たちは、天空の大樹ユグドラシルの頂上……陽光降り注ぐ、広大な聖域へとたどり着いたのだ。
その中央には、ひときわ神々しい輝きを放つ、巨大な果実が実っていた。
(あれが、世界樹の果実……!)
しかし、その果実を守るように、巨大な影が立ちはだかった。翼を広げると、ゆうに数十メートルはあろうかという、巨大な鳥。
黄金色の羽毛を持ち、鋭い嘴と爪を持つ、威厳に満ちた姿。あれが、ガーディアン「ルフ」なのだ!
「キィィィィィィィーーーーーーッ!!!」
ルフが、空気を震わせる鋭い鳴き声を上げ、俺たちに向かって急降下してきた。
ユグドラシル攻略、最後の試練が始まったのだ。




