46話 伝説の果実
炎華特製の魔法のフライパン「マーメイド・ティアーズ・パン」を手に入れてからというもの、俺の料理ライフは一変した。
どんな食材も完璧な火加減で調理でき、絶対に焦げ付かない。その驚異的な性能のおかげで、料理の腕が数段上がったような錯覚さえ覚えるほどだ。
(このフライパン……もっと、すごい食材で試してみたい……!)
スライムゼリーを完璧に調理できたことで、俺の中の料理人魂に火が付いたのだ。
もっと難しい食材、もっと珍しい食材を、このマーメイド・パンで調理してみたい。
そんなうずうずする気持ちを抑えきれず、俺は珍しく自分から、仲間たちに次のダンジョン探索を提案するメッセージを送った。
『皆さん! 次のダンジョン、どこか面白い食材が手に入るところ、ありませんかね!? 新しいフライパンの性能を試してみたくて!』
一番最初にレイナさんから返信があった。
『わー! 佐藤さんからお誘い、嬉しいです! 面白い食材……うーん、甘いものがいいなー!(≧∇≦)』
そして次に一条シェフだ。
『ふむ、新しい調理器具か。ならば、その性能を試すのにふさわしい、究極の食材がある。【天空の大樹ユグドラシル】の頂上にしか実らないという『世界樹の果実』だ。あらゆる病を癒し、究極の甘味を持つという伝説の果実だが、入手難易度は極めて高い。挑戦してみるか?』
そして最後、このフライパンをくれた最高の鍛冶師――炎華だ。
『世界樹の果実!? ああ、あの伝説の! それもいいけど、ユグドラシルの枝は、最高の弓や杖の素材になるって話だぜ? そっちも興味あるな! よし、行くか!』
【天空の大樹ユグドラシル】。
その名前は、俺も聞いたことがあった。雲を突き抜けるほど巨大な一本の巨木そのものがダンジョンになっているという、特殊な場所だ。
内部は広大かつ複雑で強力なモンスターも多数生息しているため、攻略難易度はAランク、あるいはそれ以上……Sランクに匹敵するとも言われている。
(せ、世界樹……! いきなりハードルが高すぎるような……!)
正直、少しビビった。
しかし「伝説の果実」「究極の甘味」という言葉とマーメイド・パンを使いたいという欲求が、俺の恐怖心をも上回った。
『世界樹の果実……! やりましょう! 行きましょう、ユグドラシルへ!』
俺がそう返信すると、全員の目的が一致した。
甘いもの好きのレイナさん、究極の食材を求める一条シェフ、最高の素材を求める炎華、そして魔法のフライパンを試したい俺。
それぞれの思いを乗せて、俺たち四人は、前人未到とも言われる天空の大樹へと挑むことになったのだ。




