44話 まさかのCM共演!?
レトルト食品の大ヒットを受けて、グルメフロンティアの勢いは止まらなかった。なんと、今度はテレビCMの企画が持ち上がったのだ。
しかも、その内容が……。
「星野玲奈さん、一条蓮シェフ、そして、新進気鋭の鍛冶師として注目を集める赤嶺炎華さん……さらに、謎の料理人Sのシルエット出演! この豪華メンバーが共演するCMで、商品の魅力を最大限にアピールしたいと考えております!」
担当者が、熱っぽく企画を説明する。
……ちょっと待て。メンバーが豪華すぎるだろ! 俺はともかく、なんで炎華まで!?
「い、いやいやいや! 俺は絶対に無理です! CMなんて!」
俺は、リモート会議の画面越しに、全力で拒否した。シルエット出演とはいえ、テレビCMなんて荷が重すぎる。
「なんであたしまで入ってんだよ! 別にあんたらの商品の宣伝なんて、興味ないし!」
炎華も、当然のように嫌がっている。
しかし……。
「えー! みんなでCM出るの、楽しそうじゃないですか! ね、炎華ちゃん!」
レイナさんが自前のアイドルスマイルで炎華に語りかける。
それを好機と見たのか、一条シェフまでもが、
「ふむ、これも料理人Sブランドを広めるための戦略か。悪くない。君の鍛冶技術もアピールする良い機会になるのではないか?」
レイナさんと一条シェフは、なぜか乗り気だ。そして、炎華は尊敬する一条シェフにそう言われると弱いらしい。
「う……。まあ、シェフがそう言うなら……別に、出てやってもいいけどよ……」
(おいーーー!?)
結局、俺と炎華の意思は完全に無視され、豪華CMの制作が決定してしまった。
***
CM撮影当日。スタジオには、本格的なダンジョン風のセットが組まれていた。溶岩が流れる洞窟(火山ダンジョン風)や、氷の柱が立ち並ぶ雪原(雪山ダンジョン風)などが再現されている。
俺は、顔が映らないように全身黒タイツの上に例のイケメン風シルエットを模した衣装を着せられ、セットの隅で待機していた。
他の三人は、それぞれのイメージに合ったスタイリッシュな探索者風の衣装に身を包み、キラキラと輝いている。
(……格差がすごい)
そして願ってもない撮影が始まった。
内容は、四人がダンジョンを探索し、CG合成のモンスターと少しだけ戦い、休憩中にレトルト食品を美味しそうに食べる、というものだ。
レイナさんは、さすが国民的アイドル。
カメラの前での笑顔やリアクションは完璧。
一条シェフも、クールな表情でレトルトを味わい、そのプロフェッショナルな雰囲気を醸し出している。
意外だったのは炎華だ。
最初は緊張していたようだが、いざカメラが回ると持ち前の勝気な表情で、レトルトの激辛チリコンカンを「辛いけど、美味い!」と元気にアピールしていた。
案外、こういうのは得意なのかもしれない。
そして、俺の出番。
シルエットなので表情は見えないが、とにかくレトルトを美味しそうに食べるふりをする、だけだ。しかし、極度の緊張から、手が震えてスプーンを落としそうになったり、変な動きになったりとNGを連発してしまった。
「Sさん、もっとリラックスしてくださーい!」
「S、硬いぞ。もっと自然に食べろ」
「おい料理人、しっかりしろよ!」
監督や仲間たちから、次々とダメ出しが飛ぶ。
(……もう、帰りたい)
撮影の合間の休憩時間。
俺はセットの隅でぐったりしていた。すると、炎華がやってきて、何やら設計図のようなものを見せてきた。
「おい、料理人。例のフライパン、こんな感じでどうだ? 人魚の涙の魔力を最大限に活かして、熱効率と耐久性を極限まで高める設計だ。おまけで自動温度調整機能もつけといてやる」
「えっ!? ありがとう、炎華さん!」
設計図には、美しい曲線を描く、未来的なデザインのフライパンが描かれていた。自動温度調整機能まで!? まさに、魔法のフライパンだ。
「礼なんていい。その代わり、完成したら、世界一美味い料理、作ってもらうからな!」
炎華は、ツンとしながらも、嬉しそうに言った。その隣では、一条シェフが俺に、レトルトのクリームシチューをもっと美味しく食べるための簡単なアレンジ方法――追いチーズやハーブの使い方などを教えてくれた。
なんだかんだ言いながらも、俺たちは、撮影という非日常の中で、それぞれのやり方で交流を深めていったのだ。
まあ、俺のCM出演は、完全に黒歴史になりそうだけど……。




