43話 伝説への序章?
Aランクダンジョン【海中神殿ネプトゥーヌス】の攻略。
そして伝説の魔獣クラーケンの討伐。
このニュースは、レイナさんのSNSや一部の探索者向け情報サイトなどを通じて、瞬く間に広まった。
特にそのパーティー構成が「国民的アイドル」「三ツ星シェフ」「新進気鋭の鍛冶師」、そして「謎の凄腕料理人S」という異色の組み合わせだったこともあり、注目度は非常に高かった。
『あの星野玲奈たちのパーティー、Aランクダンジョン攻略したってマジ?』
『料理人Sって、実は戦闘もめちゃくちゃ強いんじゃ……?』
『メンバー構成が豪華すぎる。もはやSランクパーティーだろ』
『Sの正体、ますます気になる……』
ネット上では、俺たち「料理人Sパーティー(仮)」の知名度と評価が、本人の意思とは全く関係なく、うなぎ登りになっていた。
もちろん俺自身はしがないFランク探索者兼サラリーマンであり、Sランクなんてとんでもない話なのだが……。
そんな世間の喧騒をよそに俺は日常に戻っていた。
まずは炎華に約束通り「人魚の涙」を託した。
「本当にいいのか? これがあれば、相当な業物が作れるんだぞ?」
炎華は、改めて確認してきたが、俺の決意は変わらない。
「うん。俺には使いこなせないし、炎華さんが、これで俺の調理器具を作ってくれる方が、ずっと嬉しいから」
「……ふん。まあ、そこまで言うなら、ありがたく使わせてもらうぜ。期待して待ってろよ! あんたを世界一の料理人にしてやる!」
(だから俺の本職はサラリーマン!!)
彼女は、少し照れたように、しかし力強くそう宣言し、人魚の涙を手に自身の工房へと戻っていった。どんな調理器具が出来上がるのか、本当に楽しみだ。
一方、一条シェフは、自身のレストランでクラーケンの墨を使った新作パスタを発表し、グルメ界で大きな話題を呼んでいた。
「料理人Sとの邂逅から得たインスピレーション」という触れ込みで、ますます「料理人S」の神秘性が高まる結果となっている。
彼からは「君のおかげで、新たな料理の扉が開いた。感謝する」という、彼にしては珍しく素直なメッセージが届いた。
少しは、俺のこと認めてくれたのか?
そして、グルメフロンティアから発売されたレトルト第二弾「灼熱の激辛チリコンカン」と「極北の濃厚クリームシチュー」も、第一弾に劣らぬ大ヒットを記録していた。
特に激辛チリコンカンは、その本格的な辛さと旨さが評判を呼び、激辛マニアの間で「聖地巡礼」ならぬ「聖品実食」ブームまで巻き起こしているらしい。
俺のアパートには、またしてもグルメフロンティアから大量のレトルト食品が送られてきて、しばらく食費には困らなさそうだ。
……嬉しいような、複雑なような。
俺の日常はダンジョンと料理、そして個性的な仲間たちによって、確実に、奇妙な方向へと回り始めていた。




