42話 至福の食卓
「さあ、皆さん、冷めないうちにどうぞ!」
俺の言葉を合図に全員がフォークと箸を手に取る。まずは、揚げたてのゲソの唐揚げからだ。
「いただきまーす!」
レイナさんが、大きな唐揚げをパクリと頬張る。
「んん~~~っ!!! プリッッップリ!!! なんですかこの弾力! 噛めば噛むほど、旨味がじゅわ~って溢れてきます! 衣もサクサクで、ネギ塩レモンだれが爽やかで……最高です!」
目をキラキラさせながら絶賛の嵐だ。
「ふむ……。確かに、この食感は素晴らしいな。火加減も絶妙だ。身の旨味を閉じ込めつつ、硬くなりすぎないように揚げている。……やるじゃないか、S」
一条シェフも、感心したように頷きながら、上品に唐揚げを味わっている。
「……うまっ! なんだこれ! タコともイカとも違う、この歯ごたえ……! クセになる! タレもいいな! 酒が欲しくなるぜ!」
炎華も普段のツンとした態度を忘れ、夢中で唐揚げを頬張っている。
俺も一口。
(……うん、美味い!)
自分で言うのもなんだが、これは最高傑作かもしれない。クラーケンの身の持つポテンシャルの高さとシンプルな調理法、そして特製のタレが見事にマッチしている。
激闘の後の空腹も相まって、手が止まらない。
あっという間に唐揚げの山が消え、次に漆黒のパスタに手が伸びる。
「うわー、本当に真っ黒ですね……! でも、いい匂い!」
レイナさんが、期待と少しの不安が入り混じった表情でパスタをフォークに絡めて口に運ぶ。
「…………! おいひ……! すごく濃厚……!
海の香りが、口いっぱいに広がります! イカスミとはまた違う、深みのある味わいですね! コクがあって、美味しいです!」
見た目のインパクトに反して、味は絶品のようだ。
「なるほど……。クラーケンの墨は、イカスミよりも雑味が少なく、純粋な旨味と磯の香りが強いのか。パスタソースとして、非常に面白い素材だ。これも、悪くない」
一条シェフも冷静に分析しつつ、その味を評価している。
「……黒いのはちょっとアレだけど……味は、確かだな。濃厚で、後を引く。……おかわり、あるか?」
炎華も、すっかり気に入ったようだ。
俺たち四人は、Aランクダンジョン攻略という大きな達成感と目の前の絶品クラーケン料理に心もお腹も満たされていた。
苦しい戦いを共に乗り越え、美味しい食事を囲む。これ以上の幸せがあるだろうか。
俺たちの間には、もはや単なるパーティーメンバー以上の、強い絆が生まれているのを、誰もが感じていることだろう。多分だが……。
そして海中神殿からの帰り道。
炎華が、キラキラと輝く人魚の涙を、俺の目の前に突き出してきた。
「おい、料理人」
「ん?」
「この『人魚の涙』、あんたにやるよ」
「えっ!? いいのか!? こんな貴重なものを……」
「ふん、あたしはもう、こいつの魔力データは解析したからな。それに、あんたには、いつも美味い飯を食わせてもらってる借りがある」
「で、でも……」
「いいから、受け取れ! その代わり、これで、あんた専用の、もっとすごい調理器具を作ってやる! 今使ってる安物より、百万倍マシなやつをな!」
炎華は顔を赤くしながらも、力強くそう宣言した。彼女なりの感謝の表現なのだろう。
「……! ありがとう、炎華さん! 楽しみにしてる!」
俺は、彼女の気持ちを素直に受け取ることにした。
人魚の涙を使った、炎華特製の調理器具……。
一体どんなものができるのか、今からワクワクが止まらない。
こうして、海中神殿での大冒険は幕を閉じた。
レトルト開発、グッズ展開、そして新たな仲間と未知なるダンジョン。
俺の「現代ダンジョンまんぷく飯」ライフは、ますます賑やかになっていくのだった。




